海外ドラマ、ネットドラマの人気がますます高まる中、話題作を連発するTBS・飯田和孝プロデューサーにお話を伺った。
『御上先生』の放送を今年3月に終え、来年には待望の『VIVANT』続編の放送を控える人気プロデューサーの仕事とは。
ドラマ制作の裏側に迫る。
紙1枚からドラマは始まる
──まず初めに、企画段階から放送されるまでのお仕事について教えてください。
企画が通る前から脚本家とは話をしているんですよね。まず企画書を作るんですけど、企画意図や登場人物、キャストのイメージ、また僕の場合は最終話まで細かいあらすじを含めるので、全部で大体50〜60ページになります。
企画が通ったら、キャスティングを始めます。並行して脚本家と台本を作っていきますね。そこまではチームに僕と脚本家しかいない状態です。
キャスト以外にも、たくさんのスタッフを集める作業もプロデューサーの仕事なんです。たとえばAD(助監督)などの制作チームやカメラマンや照明、音声などの技術チーム、美術チーム、衣装、メイク、プロモーションをする人……。その過程で、監督もチームに加わります。僕が脚本家とある程度作ったものに映像的な視点や人物の動きの視点から指摘をもらうんです。それを反映して、台本の仕上げ作業を進めます。登場人物をどのようなキャラクターにしていくかも監督と打ち合わせを重ねています。
撮影開始の3ヶ月くらい前には全スタッフが合流してスタンバイしていて、撮影開始から4ヶ月半くらいで全10話分を撮影します。宣伝やSNSの戦略、ポスタービジュアルにグッズ、配信はどうするかというプランを考えて、各部署の人を動かすのもプロデューサーの仕事ですね。こういう企画を実現させたいなっていうアイデアを紙1枚の状態で考えるところから、脚本家たちが加わってストーリーを一緒に組み立てていく。撮影が終わると現場スタッフは抜けるけど、僕は会社に収支報告をするまで仕事が残っているんです。だから、1人から始まってまた1人で終わっていくという(笑)。
今(2025年6月)だったら、再来年の1月とか4月くらいに何をやろうって考えていますね。
──1年以上も先の企画を考えているのですね。
そうですね。企画が決まってから動き出すので、企画成立からオンエアまで1年半以上は欲しいなと思います。よく「流行を捉えてますね」と言ってもらえるけど、実際その企画をやるって決まっているのはかなり前なんですよね。流行に乗っかったように見えて、描いているのは普遍的なことなんです。世の中の動きは当然見ているけれども、トレンドにフィットしているから面白いものができるわけでもなくて。とにかく面白いと思えるものを突き詰めていくことのほうが、優先順位としては高いですね。
——ドラマにはスタッフやキャストなどたくさんの方が関わっていますが、どのように認識の共有をしているのですか。
1話ごとに監督主導で全スタッフを集めて打ち合わせをしています。僕はそのときにドラマのコンセプトとか、視聴者に受け取ってほしいメッセージを結構長々と語っていますね。あとは、撮影の時にちょっと違うなって感じたことはその都度伝えています。でも結局、最初の企画書に全て詰まってるんですよ。企画書には制作者の信念や、なぜこの企画をやりたいかっていうのが詳細に書かれているので。企画書は物語全体の教科書になるものなんです。

脚本家と共に歩む
——脚本家とはどのように出会うのですか。
プロデューサーは、AD、AP(アシスタントプロデューサー)などを経てからなるものですが、その過程で脚本家とコミュニケーションを取る機会があります。他局のドラマで、ストーリーや台詞が面白いなと思う脚本家の連絡先を調べることもあります。若い頃に企画書のプロットを若手の脚本家と一緒に作ることが多いんですよね。昔から企画書を一緒に作っていた宮本君や山本さんには『VIVANT』の脚本をお願いしています。『VIVANT』で一緒だったその2人と、李さんとは『アンチヒーロー』でも共同脚本という形で一緒に仕事をしました。脚本家のみんなと一緒に僕も成長していく感じがします。

──たとえば『アンチヒーロー』は4人の脚本家(山本、李、宮本、福田)が共同で、『ドラゴン桜(2021)』は4人の脚本家(オークラ、李、小山、山本)が話ごとに交代で書かれていますよね。このような形式の違いについて教えてください。
『ドラゴン桜(2021)』の様に話ごとで脚本家が変わる場合はすごく効率がいいんですよね。たとえばプロデューサーと脚本家の1人が1話の打ち合わせをしているときに、別の脚本家は2話を書いてるとか。あとは、扱う題材によって適材適所の配置もできるから、話ごとに脚本家を変えるパターンは多い。
逆に『アンチヒーロー』の共同執筆は、とても時間がかかったんですよ。脚本家4人全員が同時に1話を書くと、僕は4通りのストーリーを読まなきゃいけなくなるじゃないですか。企画書に詳しいプロットがあるからそれぞれの中核は同じだけど、四者四様の視点がある。
『アンチヒーロー』でいえば、第1話で新人の赤峰(北村匠海)が最初から明墨(長谷川博己)の事務所にいるっていう風に書いてくる脚本家もいれば、事務所を訪ねるシーンから書く脚本家もいて、全然違うんですよ。でも後者はありがちだなと思って、最初から事務所にいるパターンになりました。まずは4つの脚本から2つぐらいに絞って軸にしながら、残り2つからも台詞などを取ったりして最終的には僕が決める。第2話のラストで赤峰が緋山(岩田剛典)と遭遇するシーンは、実は第9話くらいまで脚本を作った後に戻って考えたんですよ。伏線を張りながら作ってるから、時間がかかります。
それぞれの方式にそれぞれの良さがあって、『アンチヒーロー』はこの方式が合っていたと思います。そしてこの方式の大事なことは、お互いがリスペクトし合うこと。その台詞を誰が書いたのかということを言い始めると、最終的に誰かが折れるしかなくなって、絶対良いものにならない。だから、そういうことは言わないということだけ決めてみんなで一緒にやってます。
選ぶっていうことは、捨てること。選ばれなかった方も納得できる言葉と自分なりの根拠を持って議論を進めていますね。

——リアリティーのある作品を作るためには、やはり専門家の方への取材が大事なのでしょうか。
そうですね。たとえば『御上先生』だと工藤勇一先生という方にお話を伺いました。取材で得たものをどの程度作品に活かすかっていうのは意外と難しいんですよ。取材で聞けたことをただ伝えるだけなら、それはもうドラマじゃなくてドキュメンタリーになってしまう。ドラマはフィクションですから。
だから僕は、取材で得た要素は主にドラマの登場人物に反映させるようにしています。取材で分かったその人の人間性や考え方を、うまく取り込めないかと。登場人物の人間性や考え方はその人物の発言や行動につながっていきますから。
工藤先生への取材で印象的だったのは、日本の学校は民主主義について一切教えていないという話ですね。日本の学校では全ての問題を先生が解決するのが当たり前になっている。たとえば、小学校で生徒が喧嘩してたら先生が間に入って仲直りさせるじゃないですか。でも社会に出たらそうやって止めてくれる人はいないですよね。なんでも先生が解決してくれたら、自分たちで解決しようとしなくなる、と。
だから御上先生は生徒の問題に介入するんじゃなくて、生徒に「どうする? 考えて」と言うタイプの先生にしようと決めたんです。取材で得たものが登場人物の行動、ひいては主体的に学ぶ生徒たちというドラマ全体のコンセプトにつながっています。

アイデアは止まらない
──これからどんなドラマを作っていきたいか、やってみたいテーマや将来の展望を教えてください。
『アンチヒーロー』も『御上先生』も、主人公が全てを計算し、コントロールしていました。今度は、予期せぬことに巻き込まれていく主人公を描きたいと思っています。
あと、ドラマって最後には正義が勝ちがちですよね。僕自身そうじゃない物語の進め方を想像したことが無かったから、やってみたいです。あとファンタジー。完全ファンタジーよりは、1つのファンタジー要素ゆえに大きな物語が生まれるものにチャレンジしてみたいと思います。たとえば『JIN-仁-』でいうと、タイムスリップだけがファンタジー要素なんですよ。
また、普段は海外ドラマからヒントを得ることも多くて。これは僕個人の考えですが、たとえばイギリスのドラマはアメリカに比べて、人物や関係性を掘り下げていて、上質なドラマが多い印象なんですよね。だから海外の人とも一緒に仕事ができると良いなと思っています。
注『JIN-仁-』2009年に放送され、2011年には『JIN-仁-完結編』も放送された。
現代の医師が江戸時代にタイムスリップし、人々の生命を救おうと奔走する物語。原作は村上もとか、脚本は森下佳子、主演は大沢たかお。
TBSドラマプロデューサー。 埼玉県熊谷市出身。 『御上先生』『アンチヒーロー』『VIVANT』『マイファミリー』『ドラゴン桜(2021)』等のドラマを手掛ける。 『VIVANT』では、2024年度エランドール賞プロデューサー賞を受賞。 『御上先生』では、社会問題のテーマの中に人間ドラマを描き出すことで、視聴者が深く考えるきっかけとなっている。現在、2026年放送の『VIVANT』の続編を製作中。
