データのアマとプロの視点から描く、マス研的マンガワールド
今回は『ワセキチ』Vol.42の中から「マンガ」に焦点を当てた企画のインタビューをご紹介します!
ミュージシャン、落語家、書店員、プロスポーツ選手、俳優、YouTuber など、総勢800人のガチなマンガ好きが本気で選んだ、「すごい!」マンガを紹介するガイドブック。
1988年より刊行されていた『このミステリーがすごい!』の形式を踏襲する形で、2005年より年度版『このマンガがすごい!』が創刊される。様々なマンガ好きのその1年で発売されたタイトルからおすすめしたいマンガをアンケート形式で集計し決定したランキングを掲載。また、ランクインした漫画のレビューや、漫画家インタビューなどが掲載されている。
その人にとって1位のマンガを
——『このマンガがすごい!』で伝えたいと思っていることは?
『マンガのガイドブック』として「こんなマンガが今面白い」を読者に伝えたいです。
そのために、伝える手法としてランキング形式を採用しています。しかし、ランキングの1位が万人にとって面白い必要はないと思っています。マンガは趣味性の強いものだからこそ、 “合わないもの”があってもいい。それでも、このガイドブックを通じて、その人にとっての1位を見つけてほしいと思って編集しています。色々な角度や様々な人の声と共に紹介するマンガの中から、自分に合うものを見つけていただければと思います。
——これまでのランクイン作品に見られるトレンドや傾向はありますか?
トレンドは分析する人が後から作っている。結局、作品ありきだと感じています。その時に面白いマンガが話題を呼び、そしてそれに似た傾向のマンガが生まれてきやすくなり、トレンドをつくっていく。『このマンガがすごい!』ではその時々で面白い作品を紹介しているので、15年分の『このマンガがすごい!』でどんな作品が紹介されたかを見ればトレンドや傾向が分かるのではないでしょうか。
——様々な面白いマンガを広く拾い上げるために、投票で注力している点は?
本書の肝はアンケート選者の皆さんです。いかに活きのいいマンガを本誌で紹介できるかにおいて、マンガ好きの方を集めることは不可欠です。常にアンケート選者についてアンテナを張っていくことで、年代の移り変わりや投票の幅についても多様性が生まれてくるのだと思います。
——実際にはどのようにアンケート選者を集めているのでしょうか?
地道な作業をひたすらしています(笑)。アンケート選者の方にマンガ好きの方を紹介してもらったり、インターネットでマンガの書評をたくさん書いている人を見つけ出してお願いしたり。ただ一つのジャンルや雑誌のみを読む人というよりは、様々なマンガに触れている人にお願いする傾向があります。

世に知られていない作品を
——結構ニッチなマンガがピックされていますね?
基本的にはメディアで推されている既に認知の高いものというよりは、「まだ知られてないけどこんなに面白い作品もあるよ!」を知ってもらいたいと思っています。だからこそ、マンガ好きの間では話題だけど、一般的にはまだ知名度の低い作品を押し上げていくのが一つの役割だと思っています。
——編集部では具体的にどのようなお仕事をされているのでしょうか?
編集部の仕事は分かりにくい部分もあるのですが、コンセプトを立て、それに沿った企画を立案する。その後ページ割りを作ってライターや取材者を集めてお願いをし、上がってきた原稿をデザイナーと相談しながら誌面に落とし込んでいくといったものです。
編集委員もみなマンガが好きですが、どんなランキングになるかは予想がつきません。ランキングの結果を見て初めて「あぁ、これが来るのか!」となります。
——マンガをめぐる移り変わりはありますか?
1995年の週刊少年ジャンプの653万部が週刊漫画誌の売上トップでした。そこから2005年に雑誌と単行本の売上が逆転し、2019年には紙の単行本と電子単行本の売上が逆転しています。
この傾向から読者は漫画誌という雑誌に影響されることなく、作品そのものを自分の好みとして追いかける人が増えてきたのではないかと感じます。そうやって、作品単体を追いかけるようになったので、webで連載されている作品も違和感なく楽しめるようになり、web作品や電子作品のユーザーも増えてきたのかと思います。
——他の媒体におけるマンガの賞などを意識することはあるのでしょうか?
コンセプトが違うのであまり考えてはいません。他の媒体などではアワード=賞だと思いますが、『このマンガがすごい!』では面白い本を紹介するための手法としてランキング形式で紹介しているというスタンスなので。
ランキング形式でお祭りを
——なぜランキング記事って読んでしまうのでしょう?
「こんなランキング違うだろー」「誰に聞いたんだよー」「わかるわかる!」なんてあれこれ言いながら読んでしまいますよね。ランキング形式って抗えない何かがあるのでしょうか? こうしたランキング形式で紹介することでひとつの業界におけるお祭りみたいになればと思っています。店頭でランキングの上位作品が並べて販売されるなど、業界全体が盛り上がる後押しになればうれしいです。

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