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「行方不明展」現代ホラーのトップランナー・梨が語る「ホラーができるまで」(前編)

ギミックについて


――梨さんの作品はギミックが重要な要素ですよね。

普通、ホラー小説のプロット会議で「ギミック」っていう言葉を使うことはあんまないんですけど、私の場合超頻出ワードなんですよね。

――『かわいそ笑』は、QRコードなどの既存の小説にはないギミックが印象的でした。

『かわいそ笑』は私の処女作で、イースト・プレスさんからはじめて出させていただいた書籍なんです。
当時はまだオモコロライターになりたてのときで、商業も最初で最後だろうと思ってたんです。だから、もうやりたいことやったれってことで、1話につき1ギミックっていう制約を自ら課して。もう出版社出禁になるぐらいのことしたろ、と思って始めたので、特にこの作品はギミック会議がめちゃくちゃ多かった記憶がありますね。

――今もギミックのストックは結構あるのでしょうか。

そうですね。やりたいことはいっぱいあるんですけど、やっぱり小説だと今、紙が高くて(笑)。

本当はね、色々やりたいんですよ。本を燃やしたら、最終的に1枚だけ燃えない紙が挟まってて、それ読んだらなんか出てくるとか。「やりたいんですけどどうですか」っていうのを毎回プレゼンするんですけど「ちょっと無理っす」と言われてしまいます

 

 

徹頭徹尾「エンタメを作ってる」――ギミックのこだわり

―ギミックのこだわりについて教えてください。

ギミック的な演出に関して言えば、私はインターネットでずっと活動してきた人間だったので、紙の小説は縛りプレイみたいなところがあるんです。

そもそも小説って「マスター」っていう雛形が決まってるんです。ラノベとかだったらまだいけるんですけど、小説だと写真や挿絵1つ入れるだけでもページの折りとか変わっちゃうから。
でも、インターネットやってる人間からすると、画像をポンって載せた方が伝わりやすいっていうこともざらにあるわけですよ。文章で全部伝えることなんて不可能なんで。
あと、私は徹頭徹尾「エンタメを作ってる」っていう信念のもとでやっているので、できる限りあらゆる人が楽しめるメディアを作りたいんですよね。ただ、私のホラーってすっげえわかりづらいんですよ。真相があるんだかないんだかわかんない、みたいな。
私の場合、理解の難易度が高いということは重々承知しているので、「わかんなかったから怖くなかった」って言われるのはいちばんの負けなんです。作り手側からすると、わからなくても最低限直感的に楽しいなって思わせる要素はないといけないだろうなと思っています。
たとえば、ここにひとつの□がある(※)だと、初回限定封入版に入っている折り紙を、小説に従って折っていくと「とあるもの」が出来上がる。その「とあるもの」の中に「とあるメッセージ」が浮かび上がるんです。

私の場合は、写真や画像といった直感的に楽しめるメディアを入れることで、より読者の参入障壁を下げる意味合いがあるんです。作り手側からして、表現手法としてのハードルを下げるのと、ハード面で読者参入のハードルを下げるっていう2つの理由がある。つまり、画像を入れることで作り手は簡単に説明できるし、読み手も理解しやすくなるんです。

『ここにひとつの□(はこ)がある』:梨の著作。2024年に角川ホラー文庫から出版された。

――以前対談で、梨さんの小説は情報を抜くのが上手いという話が出ていたと思うのですが。

そうですね。いっぱい断片的な情報を用意して、どう繋げるかは読者次第なんだけれども、なんとなくその裏側には大きな何かがありそうだ、みたいなフォーマットって、ここ2、3年の流行のモチーフで。そういうものって、読者側の視点で考えたときに1つ問題になるのが、これは考察していいのだろうか、作者はちゃんと答えを用意しているのだろうかという問題があるんですよ。

その信頼度を担保するために、書かれてない文章を一旦全部作って、それを抜くっていう作業をするんです。『攀縁(※)』っていう2万字ぐらいで出したネット小説は、本当は8万字ぐらいあるんですけど、6万字ぐらいをばっさりカットして。

攀縁(はんえん):梨の著作。2020年にSCP財団に投稿された。


――梨さんの作品への考察に対する答えは用意されているということなんですね。


そうですね。答えを用意していないので、皆さんで考えてくださいってするのはちょっと違うかな。作者が答えを用意してないと、読者も答えを読み解きたいとは絶対思わないなという思いがあるので。そこを最低限用意するのが個人的なマナーかなぐらいの感じで作っています。