クラシック音楽に特化したアプリを作りたい
――若者とクラシック音楽の距離を縮めるには何が必要でしょうか
この業界全体として、動きが鈍い傾向がある。20~30年前、もしくはバブル時代に動いていたやり方、仕事の作り方が未だに続いている。
だからコンサートホールでも大量のチラシをビニール袋に入れてお客さんに配ってるんだよね。PDFで見れるようにすればいいじゃんって思う。SDGsとかエコの時代だというのもあるし、もし自分のチラシが床に落ちてるのを見たらアーティストは嫌だよね。
僕の目標としては、いつかアプリを作りたい。スマホでチケットが取れて、スタンプを貯めたりCDを予約したり、文化関連のニュースが網羅的に見れるような。
紙のチケットやパンフレットは思い出としてほしい人の分だけ用意すればいいと思うし。でも、僕の理想のアプリを作るには維持費だけで年間2億円くらいかかるらしいから、周りの協力が得られないとハードルは高いかな。
――若者にとってクラシック音楽がもっと気軽で身近な存在になればいいですね
そうですね。日本で一年間にクラシックのコンサートに来る人数って知ってる?
コロナ禍前のデータでは、1億人以上人口がいる中で600万人しか来てなかった。全体の10分の1以下。
まあリアルだなとも思うけど、もうちょっと増やせるんじゃない?とも思うし。年齢比率を見ると、半分以上が40~50代以降。30年後この世代がいなくなったとしたら、300万人以下になっちゃうよね。
今後減っていくであろう聴衆層をどう維持して、増やしていくかは結構ハードルの高い話で。
上の世代には、スマホやアプリを使いこなせない方々もいるわけだけど、業界の未来を考えると、若年層にターゲットを絞るべきだと思う。今からアプリとか、デジタル関連のことをやっていかないとダメだよね。
「この道で生きていく」という固い決心があった
――反田さんは「世界中の学生が目指すような音楽学校を日本に作りたい」という夢を掲げ、その基盤となるオーケストラの設立や株式会社化など、業界初の試みに数多く取り組まれてきました。ご自身のキャリアだけでなく他の音楽家や業界全体のことを考えてこられた原動力は何でしょうか
そういう性格なんだと思う。
たまにそういう質問をいただくと、自分でも「よくやってる」って思うよ(笑)。この業界、ただでさえ一人で生きていくの大変だから。音大卒業しても、プロになれるのが0.1%ぐらいっていう厳しい世界。
だけど、昔から仲のいい子が困ってたら全力で助けたいって思う性格だったから。昔サッカーやってたときは、チームみんなで一緒に頑張るのが好きだった。でも、ピアノってずっと一人だから、そういう寂しさはあるかもしれない。
あとは義理堅い性格もあって、僕は絶対人を裏切らないけど、自分が裏切られてもあんまり気にしない。信頼関係が前提としてあれば、僕も全力で助けたいって思う。困っているのを見過ごせない性格なのかもしれない。小さい頃からそうだった。
――「食べていくのが難しい」といわれる音楽の道を進む決心をしたときに、不安はなかったのですか?
うーん、なかった! 「俺はこの道で生きていく」っていう固い決心と覚悟、負けず嫌いな性格があったから。
音楽以外のどの分野でも、「こうなりたい」っていうビジョンがあって、それを突き通す信念があることが一番大事かもしれない。
挑戦しないでぐちぐち言うのが嫌いなんだよね。たとえば、コンクールに出たことがないのに「コンクールがすべてじゃないよね」って言うのは違うと思う。挑戦してダメだったことは別に恥ずかしくないし、切り替えればいいだけだから。僕はダメだったと気づけたことがいいことだったなってポジティブに思える人だから、「やらなかったら後悔残るんじゃない?」って思っちゃうんだよね。ショパンコンクールも正直、失敗のリスクを考えると受けたくない気持ちもあった。だけど、コンクールに出ないでぐちぐち言う自分が嫌だったから、出てダメだったら切り替えて、新しい方向に転換すればいいって思って出場を決めた。
――好きなことを仕事にしたくても、将来の安定を考えて躊躇してしまう人はどのように考えればいいのでしょうか?
「愛情」じゃないかな。本当にそれが好きかどうか。確かに人によっては葛藤があるかもしれないけど、続けることって結構大事だと思うんだよね。有名な指揮者でも60代になってからブレイクしたり、中には80歳を過ぎてから活動していた人もいるし。自分が初めて大きなオーケストラの定期公演に出られたのも、カフェで演奏したときに偶然名刺をもらえたことがきっかけだったし。誰がどこで見ているかわからないから、チャンスはいくらでもあると思う。だから諦めないで信念を持ち続けること、なりたい自分を想像することは大事なんじゃないかなって。

日本に音楽学校を作りたい
――ご自身の今後の展望を教えてください
ベースとなるのは音楽家の活動ですね。最近はピアノよりも指揮のほうが楽しくて。まだ深く知りきれていないからこそ楽しいと思えてるのかもしれない。
ピアノは20年以上やってきて、辛いことをたくさん乗り越えてきたからね。指揮のほうも今後そういう時期が来ると思うんだけど、やっぱり主軸はピアノと指揮の二つ。指揮をやることによってピアノも良くなるし、ピアノをやることによって指揮も学ぶことがあるし。
そして、自分のオーケストラをもっと世界に連れて行って、SNSも使いながら認知度を世界的に上げていきたい。
国内では音楽祭を作りたいよね。奈良⁽*⁶⁾では作ろうかなと思ってるんだけど、沖縄もいいなと思ってて。
あと、アパレルもずっとやりたくて。子供が演奏会で着る服を売るみたいな。「これを履いたら足が速くなる」っていう謳い文句の靴があるように、「この服を着たら指が速くなる」「音程が良くなる」みたいな(笑)。衣装の悩みって演奏家あるあるだしさ。最近はジャケットなしでシャツ一枚で弾く人も多いし、デザインだけじゃなくて機能性も大事だからね⁽*⁷⁾。ペダルを踏む足の指先の感覚がわかる靴とか、いろいろ作ってみたい。あと、コンサート中にお客さんが包装を破っても音が鳴らない飴とか(笑)。
教育系の企業とコラボするのもきっといいと思うし。ビジネスをやる上では、全く関係のないものどうしを掛け合わせてみるっていうのは脳のトレーニングになる。
*6 反田さんが社長を務めるJapan National Orchestraは奈良県を拠点としており、将来的には同県での音楽学校設立を目指している。
*7 取材後の2025年11月、Japan National Orchestraは、アパレルブランド「Theory」による衣装提供を受け、演奏家の新たな表現を「服の力」で支える取り組みを開始した。
――音楽学校を作るという夢は実現できそうですか?
今から15年後くらいには実現できるんじゃないかな。僕たちオーケストラが世界中で活動して知名度を上げていって、そこで知ってくれた子どもに日本に来てもらう、っていうのを目標にしていて。10年前くらいの時点で30年後の設立を目指していたんだよね。
いい演奏家を育成するためには、専属のプロオーケストラがいる音楽学校を作って、学生との共演回数を多くすることが必要だと思う。今後、全国的に音楽学校が減っていく時代になっていくから、しっかりした学校がいくつかあれば、そこに注力して質の高いカリキュラムを組んだほうが効率がいいと思うんだよね。
奈良県・奈良市やスポンサーチームとすごくいい関係で話を進めているから、実現が楽しみです。
【取材後記】
世界を飛び回る音楽家にして、業界に新風を巻き起こす経営者。音楽への愛と信念、不断の努力で挑戦を続ける姿からは、計り知れないほど多くのものを学ぶことができます。
そんな反田さんの切りひらくクラシック音楽界に、あなたも聴衆として加わってみませんか。「ちょっと興味あるかも」の”その先”に、きっと新しい景色が待っています。

反田恭平さん、ありがとうございました!
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