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イララモモイ×負けヒロイン研究会スペシャル対談

マンガ配信アプリサイコミで連載していた、片想い女子共感必至『付き合えなくていいのに』の作者、イララモモイ先生と早稲田大学負けヒロイン研究会(現Blue Lose準備会)の幹事長によるスペシャル対談! 日々負けヒロインを愛している早稲田生が分析した「付き合えなくていいのに」とは……?

◯プロフィール

風つむじ

負けヒロインに関する会誌「Blue Lose」の発行を主な活動とする負けヒロイン研究会の幹事長。負けヒロインに目覚めたきっかけは「中二病でも恋がしたい!」

(以下:舞風)

 

イララモモイ

「付き合えなくていいのに」の作者。登場人物の摂食障害や蛙化現象などの写実的な心情描写と関係性から多くの人の胸を打つ。物心ついた頃から叶わない片想いをする人が好きで、幼少期から国民的アニメのキャラクターが叶わない片想いをする二次創作を書いていた。

(以下:イラ)

 

トミオカ

「付き合えなくていいのに」の担当編集。

(以下:トミ)

 

舞風さん感想:僕は大学生の恋愛にあまり興味が無いのですが、えりこ編は面白く読ませていただきました。特にその次の詩歌編がすごく好きでした。詩歌と時彦二人の話を高校時代から始める手腕は見事だと思いましたし、その後の共依存を解きほぐしていくため離別を選択したことが非常に良かったです。また、どうして早稲田大学を舞台にされたんでしょうか? 見覚えのある場所がたくさん作中に出てきたので、親近感がありました。

イラ:私は地方の大学出身だったので最初はそこを舞台にしようと思っていたんですが、都内の大学を舞台にした方が読者からの共感度が高いのでは、と指摘をいただき、トミオカさんの母校である早稲田を舞台にしました。

トミ:キャラクターもなんとなくの学部イメージがあります。えりこと時彦は文キャン、詩歌と美玲は本キャンで実学系です。男鹿は理工だったかな。

イラ:建築系って言ってましたね。

 

◯キャラクター分析

清水えりこ。第一章の主人公。中学ぶりに再会した北山時彦に恋心を抱く。

舞風:良くも悪くも普通の女の子という印象でした。少女マンガの主人公みたいな。北山と付き合えなかったのはタイミングが悪かったからかなという気がしました。北山が詩歌と離れたタイミングでもっとアプローチすべきでしたね。

イラ:すごい鋭い分析! えりこが普通の女の子ってのはその通りです。よくえりこは今まで幸せだったから普通でいられたんじゃないかって言われることもあこともあるんですが、私はそうは思ってなくて。過去に色々あったかもしれないけど、その中で普通でいられたことがえりこの強さなのかなって。

舞風:印象に残ったのはやはり最終章の最後のシーンです。おそらく本人は永遠に気づかない、時彦との間に芽生えていた小さな奇跡がこぼれ落ちていった寂しさが迫り来るようで素晴らしかったです。

 

北山時彦。いわゆる沼男子。えりことは好きなバンドが一緒で意気投合をする。

舞風:彼は優しいながらも言動の裏を読みたくなるようなキャラクターでした。詩歌と一度離別するところで「今言ったの全部うそでしょう」(69話)、と言われていたと思うんですけど、時彦の本心はどうだったのかというのがかなり曖昧だったなと。時彦は良い意味でも悪い意味でも裏表が無いんだと思います。

イラ:時彦は何考えてるか誰にもわからないというキャラで作りました。人より許容量が多いから、めんどくさい時は人に優しくするんです。優しくするのが一番楽だから。

舞風:なので印象に残ったのは軽音ライブの飲み会が時彦視点で語られるシーンでした。おそらく時彦本人も自覚していない、依存されることへの快感が透けて見えて読んでいて面白かったです。

 

遠藤詩歌。第二章の主人公。時彦の高校の先輩。

舞風:この漫画で一番好きなキャラクターでした。生い立ちを含めてすごく丁寧に描かれていたし、自己肯定感の低さやそれを時彦に頼ることで解消してしまう弱さもありながら、それを時彦に見せまいとするめんどくささが良かったです。付き合えなくてもいいから、時彦にはずっと隣にいてほしいという願いが強すぎたことで捻れてしまっていたけど、最後には前を向いて自立しようとする姿勢が美しかったです。

イラ:詩歌を好きになってくれて嬉しいです! 詩歌は時彦のことが好きすぎておかしくなっちゃうっていうキャラクターで、感情の大きさが故の、裏目に出る行動が可愛いんです。

舞風:もちろん詩歌編の最後が一番印象に残りましたが、自殺しようとする直前もかなり印象深かったです。徐々に追い詰められていくところに迫力があったように思います。

イラ:摂食障害などの描写は気合いを入れて描いたので褒めていただけて嬉しいです。

 

◯ストーリー分析

えりこ編

舞風:えりこ編のあと、なぜ詩歌の過去編に舵を切ったのかは純粋に気になりました。

イラ:『付き合えなくていいのに』は、最初は詩歌すらも出ることが決まっていなかった漫画なんですけどオムニバス形式にすることだけは決まっていて。なのでえりこ編の次に詩歌編を入れました。

舞風:僕は詩歌が好きなので嬉しかったのですが、えりことの関係を続けることもできたのではないでしょうか?

イラ:えりこは描き切ったかなって思ったんです。えりこは結局付き合いたい、のではなく、好きな気持ちを味わっていたい、という結論に至ったので無理にアプローチをしなかったんです。成就することだけが恋愛の形ではないですからね。

舞風:時彦と旅館のおかみさんとのストーリーがギャグテイストで印象的だったのですが、詩歌のストーリーとの緩急はどのようにつけていたのですか?

イラ:詩歌から一回離れて別の女性と関わるっていう場面を入れたかったんですけど、普通の女の子と恋愛する話にしたら、ここまでの詩歌との話はなんだったんだ! となってしまうので、ギャグ調に描くことにしました。

 

詩歌編

舞風:そうしなかったことが本作の特徴だとは思うのですが、ここで二人のストーリーを終わらせてしまってもいいのではないか、と思うくらい良かったです。

イラ:確かに詩歌編で終わるのも美しいと思ったんですが、詩歌が依存から脱却するところをちゃんと描きたかったんですよね。

舞風:えりこの登場によって詩歌の心情が少しずつ動き、焦っていく姿が素晴らしかったです。互いに想い合っているから離れる、という選択ができることの尊さみたいなものがかなり好きなのでクライマックスは見入ってしまいました。特に、時彦が連れていってくれた富士山に単身で向かい、一人でいても世界は綺麗だと気がつくのが本当に良かったです。葛藤している人が苦しみをうまく乗り越えていくところが好きなので、詩歌の告白のシーンとか、一旦別れるってところがすごい好きです。

 

最終章

舞風:最終章って普通に見ればえりこの話というふうに読めると思うんですけど、僕の中では詩歌の再会の話のような雰囲気が所々に出ているという印象があって、作ってらっしゃる時にはどのようにその辺の釣り合いをとっていたのかなというのが気になります。

イラ

最終章の基本的な主人公はえりこかなって思っています。私は失恋しそうで、ぐちゃぐちゃになってる女の子が本当に好きなんです。最新章で一番筆が乗ってたのがこの葛藤の部分です。詩歌と時彦の再会のシーンとかもグッとくるものがあったんですけど、それはそれとして、えりこがずっと悩んで最終的に出した結論があれだったっていうのが私の中の話の軸としてありました。だから最終章はどっちかというとえりこの話だったのかな、と。

舞風:ちなみになんですけど、イララさんはどんな作品から影響をうけたんでしょうか? 物心ついた時から片想いしてる女の子が好きとのことでしたが、見ていくうちに影響をうけた作品はあると思っていて。

イラ:私が一番好きな作品は古谷実さんが書いている『ヒミズ』っていう漫画です。そこにも、負けてはないけどめっちゃ片想いしているような女の子が出てきてて。この作品は人が暗い夜道で膝を抱えて、なんでだよ、ちくしょうみたいなシーンがよくあるんですよ。人がすごい感情をガッて動かしてスンッてなってるシーンにも一ページ丸々使ったりしていて、それを見てあぁ、いいなと思ったのが始まりですかね。

舞風:そうなんですね。

イラ:それで、最終章の詩歌については、詩歌の真の強さというか、一人でもやっていけるところが最後に見られたのがすごく良かったなと思っていて。ずっと依存体質みたいなものを描いていたから、依存しないっていうのを描くという気持ちはありました。

トミ:詩歌編で終わるのも良かったんですけど、北山に影響を与えたのがえりこだってことが分かるための話が必要だなと思ったんです。詩歌の存在が北山の中で大きいけど、北山にとってはえりこもなくてはならない存在で。最終的に誰とくっつくかっていうところも大事なんですけど、えりこも詩歌も同じくらいヒロインだったよっていうことが、最後まで読めばわかるよねって話にしたかったんですよね。

イラ:詩歌編が長くなっちゃうっていうのが分かっていたので、その中にえりこを入れていく際のバランスとかはすごく考えてました。それでも北山にとってのえりこの大事さっていうのはあまり見えてこなかったので、最終章どうしようかなって思った時に、絶対北山とえりこの話にしたいなっていうのをぼんやりと思っていて。二人とも主人公だったなってみんなが思えるラストになっていたら良いなって思います。

舞風:えりこが最後、仕事に全力投球していたというか、自分が好きなものに関わる仕事をしていましたよね。これって結構負けヒロインあるあるだと思っていて(笑)、よく言われるのは、ジャンプの『ニセコイ』ですね。最後は結婚式で主人公カップルにウェディングケーキを作るんですけど、それに近いものを感じました。実際に読者の方は、どっちと結ばれる予想が多かったのかが気になります。

イラ:少女漫画だと思って読んでいる人は選ばれるのはえりこだと思っていて、そうじゃない人は詩歌だろうっていう感じだったのかな。

舞風:『付き合えなくていいのに』は少女漫画っぽい主人公を最初に持ってきたように思っていたので、なんだかんだで普通の女の子のえりこが勝つかな、という風に僕は思っていました。でも確かにストーリーを読んでいると詩歌が勝つっていう意見が出るのもわかります。

イラ:現実でああいう関係があったとしたらどっちかというと詩歌の方が有利なのかもしれないのですが、タイミングによってはえりこがくっつくっていう未来もあったんじゃないかと。

舞風:やっぱりタイミングが悪かったんですね。時彦もえりこのことが気になっている描写がありましたし。

イラ:そうですね。

 

◯最後に一言!

舞風:僕は負けヒロインがすごく好きなんですけど、負けヒロインが好きなクリエイターさんや作家さんの話を聞くことってあまりないので、どういうキャラクターとかストーリーの作り方をしたのかという話を伺える機会はすごく貴重でした。細かい話まで聞くことができてすごく面白かったです。ありがとうございました。

イラ:とても鋭いというか。早稲田の方なので賢い方なんだろうなとは思っていましたが、話し方もわかりやすくて。それだけでなく、私自身もキャラクターについて理解が深まったというか、すごく言い当てられたなと思いました。今回は貴重な機会をありがとうございました!

 

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