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なぜ私たちは二外を学ぶのか ~フランス語通訳平野暁人さんインタビュー~

通訳
大学生になると突然現れる「第二外国語」の授業。未知の言語に苦しめられた経験がある大学生も少なくないだろう。なぜそこまでして我々は第二外国語を学ばなければならないのか。フランス語、イタリア語通訳の平野暁人さんに通訳になった経緯や通訳業の今後についての展望、大学生へのアドバイスをお聞きするとともに、早稲田大生の第二外国語に対するモチベーション調査を実施した。

プロフィール

ひらのあきひと。翻訳家/通訳者/文筆家/パフォーマー。2025年元旦、noteにて発表した詩的試論「もうすぐ消滅するという人間の翻訳について」が1週間で20万超のアクセスを記録。X: @aki_traducteur

記事本編

語学に才能を見出した大学時代

――現在お仕事で使われているフランス語はどのような経緯で学び始めたのでしょうか。 

フランス文学科以外落ちたからしょうがなくって感じですね。1年浪人して、ひとつだけ受かったのが夜間大学のフランス文学科だったんです。今後の人生に全く活きないだろうと思って本当に嫌で、最初の1年間は学校に全く行かなかったですね。でもそろそろ20歳になるって思ったら急にすごく怖くなりました。焦ってドイツ語翻訳家である母に相談したら「あなたには語学の才能がある。あなたの才能は耳のよさだから、それを活かすためにネイティブの先生から学びなさい」と言われて。そこから 昼間は語学学校、夜は大学で学び始めました。いざ語学学校の初日の授業でABCの発音をしたとき「あれ、俺だけ上手いな」と気づいたんです。これを続けてたら一生困らないだろうと思えて、やる気が出ました。 

――外国語を学ぶ上でのモチベーションはどこにあったのか教えてください。 

やっぱり褒められることじゃないかな。初めは「フランス文学とかどうせ不倫して自殺する話なんでしょ」みたいなイメージで、フランスという国にも全く関心が持てないままだった。それでも勉強が続いたのは周りが褒めてくれたからです。勉強において褒められるのは生まれて初めてだったので、成功体験として強烈だったんですよ。勉強ができる人は皆こんなにいい思いをしていたのかと感じてとても嬉しかったです。 

語学は「質より量」

――習得するために勉強方法について意識したことはありましたか。

ラテン系の言語は覚えることがとても多いから最初のハードルがすごく高いんですよね。覚えるのにコツはなくて、純粋に量をこなすしかないんだとすぐに悟りました。でもこれは考えようで、覚えるというのは頭がよくなくてもできるわけです。確かに覚えがいい人と悪い人はいますが、それは量で乗り越えられるんですよ。最後は根性だから、勉強法を意識するよりは量をこなすほうが大事だと思います。 

――課題などで時間を取るのが難しい大学生に向けて、おすすめの勉強方法や授業の受け方はありますか。 

限られた時間しか取れないとなると、授業を最大限に効率よく受けることが大切ですよね。 そのためには、復習を諦めてでも予習をすることが大事です。次の単元をしっかり読んで、わかることとわからないことを整理しておくと、授業で先生の話が入ってくる感覚が全然違いますから。それに授業中には質問ができますよね。予習で分からなかったことを授業内で適切に処理していけば、復習の効率もすごく上がります。いわば、予習を徹底することで授業時間の方を復習、補習にするわけです。

もう一つ大事なのは、少なくとも勉強の指標を時間ではなく量で測ることですね。毎日5分教科書を音読しようとすると量がぼやけるので、回数を決めて確実に処理していく。はっきりと定量化すると気持ちも安定するんですよ。5回読んだぞとか、今日も10回読んだみたいな。そうすると勉強の効率もだんだんよくなっていきます。最初は5回で精一杯だったものが、だんだんと10回、20回と繰り返しても苦痛でなくなる。結局、そうした小さいところから習慣化することが大事なんじゃないかな。 

――留学はしたほうがいいと思いますか。

タイプによりますね。僕みたいに生きた音に触れて活性化していく人や、環境の影響を大きく受けてモチベーションがすごく高まる人は、留学に行くほど言語ができるようになっていくので絶対留学した方がいい。逆に、留学に向いてない人もいますよね。たとえばずっと日本人同士で群れちゃう人とか、いろいろなところに出かけるのが苦手な人は、語学の観点から見ると環境を活かしきれない。今までの人生の経験の中で、自分はどういうタイプだったかを考えてみるのもいいかもしれないですね。あと、留学を活かすためには日本で自分ひとりでできる作業を大量にしてから行かないともったいないです。行ったところでずっと寮で書き取りをしてたら意味ないですよね。

――舞台通訳の仕事内容について教えて下さい。

海外アーティストや劇団の来日公演、あるいは逆に日本のアーティストや劇団の海外公演に参加して、主に劇場や稽古場での通訳を担当します。フェスのように短期間で設営からリハーサル、本番まで駆け抜ける現場もありますし、新作であれば数週間かけてじっくり制作します。そのため、全てのセクションに携わります。演出家の指示も通訳するし、照明や音響、美術、衣装などの技術的な通訳まで、全部やります。あと、マネジメントですね。広報や取材対応も通訳が入るので。

――一般的な通訳のお仕事との違いはあるのでしょうか。

やっぱり人間同士として関わるところですね。たとえば、仕事が終わった後も一緒にご飯を食べに行くとか、子どものお土産にグッズを一緒に探したりとか。そういうのが楽しくて、しっかり作品を一緒にやった人とは友達みたいになりますね。通訳エージェントから派遣されて、会議の通訳を3時間して帰ります、というタイプの通訳者さんとは決定的に違うと思います。

――通訳の仕事に大切なスキルを教えてください。

通訳で大切なのは、わかったふりをしないということですよね。わからなかったらしっかり聞き直すのがいいです。でも、ここが難しいところで、わからなかったけど今のどうでもいいなっていうのもあるんですよ。そのときは、その部分をばっさり切るみたいな状況判断も必要なんです。あともうひとつ大切なのは、代わりに答えないということです。これは特に演劇に多いのですが、たとえば演出家が指示を出した後、休憩でどこかに行ってしまったときに、別のスタッフから「さっきこう言ってましたよね?」と聞かれることがあるんですよ。そのときに通訳が勝手に答えてはダメなんです。うっかり代わりに答えて、演出家が戻ってきたときに齟齬が生じたら責任が取れません。通訳者は訳した内容を訳し終わった瞬間から手放すっていう心がけが大事かな

見据える翻訳、通訳業の展望

――『もうすぐ消滅するという人間の翻訳について』発表から1年が経とうとしている今、翻訳の未来について心境や実感の変化はありますか。 

やっぱり、翻訳に関しては着々とダメになっていくだろうなと感じています。僕のテクストにも書きましたけど、タイムパフォーマンスを求めるあまり翻訳に対する要求の水準が下がっている傾向は早々には回復しないし。翻訳は非常に限られた形で贅沢品として残っていくと思います。おこがましいようですけど、あのnoteは日本のほとんどの翻訳者には届いたと思っていて、個別の内容についての是非や賛否はいろいろあるでしょうが、1年経って、大筋の流れに関してはやっぱりもうこれは不可逆なんだなと思って過ごしていらっしゃる方が少なくないだろうと思います。 

――そのような状況の中で、大学生である私たちに何かできることはあるのでしょうか。

何千年も続いてきた営みが消滅していくところに立ち会うのは、選んでできることじゃない歴史的なチャンスですからね。皆が当たり前に大事だと思ってきたものや価値観はなぜ大事にされてきたのか、それがなくなるとはどういうことか、進化や進歩というのは無条件にいいものなのか、みたいなことを考えるひとつの糧として、翻訳の衰退と終わりを見届けてくれるといいんじゃないかなと思います。

――通訳業界の今後についてはどうお考えですか。

 通訳もきっと世の中の大多数の人が思っているよりはるかに危機的だと思います。 最近、リアルタイム通訳の精度がすごい勢いで上がっているし。ただ、通訳の仕事で意外に皆が意識していない重要な部分として「編集」というのがあるんですよ。 本筋に何も関係ない話をばっさり切ったり、 倫理的な観点から問題視されかねない不適切な表現を回避したりするんですね。意思を持った主体としての価値判断ができない今のAIの構造からすると、これはまだ原理的に不可能なんじゃないかな。人間の価値や仕事について見直す段階へと通訳業界も入っていくと思います。

――最後に、第二外国語を学んでいる大学生に向けてメッセージをお願いします。 

せっかくだから大学にある外国語の授業を全部受けてみたらいいんじゃないかなと思います。大学にはいろいろな分野の授業があって、それぞれの専門に紐付いた人たちの人生を垣間見ることができる。大学を卒業すると、自分の人生に関係なさそうなことが目に入る機会っていうのが途端に減るんです。英語以外の外国語なんか一生必要なさそうだし、全然興味もないかもしれない。しかしだからこそ大学という、一見するとなんの役にも立たなそうなものまでいくらでも学べる贅沢な環境を活かして、片っ端から授業を覗いてみると面白いのかなと思います。                                                

 

早大生に聞く! 第二外国語モチベ徹底調査!!

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