「従来の本の形に縛られずに自由に考えて作っていけたら」
――装幀を作るときに意識していることはありますか。
装幀にはその作品の魅力を伝える役割があると思っています。書店で本を手に取ったときとか、Xで書影のサムネイルを見た瞬間に「ちょっと面白そうだな」と思えるようなものにしたいです。作品にはいろいろなテーマが複雑に入っているので、どの部分を見せるかによって装幀の雰囲気が全然変わってきてしまうんです。それによって売り上げや読者への響き方が変わってくるので難しいところだなと思います。私の場合、「難しい本に見えないようにしたい」という依頼が多いので、普段本を読まない人でも手に取ってもらいやすくしたいと思って作っています。
――電子書籍の装幀について、工夫されていることはありますか。
スマートフォンなどの小さいディスプレイで見る人が多いと思うので、パッと見てわかりやすいデザインを意識することが多いです。また、電子だと発色良くできるので、写真やイラストを使う場合は印刷では再現できないものを考えるようにしています。電子書籍だと、読書層が少し若いように感じるので、今っぽい雰囲気を意識しています。
――今後はどのような装幀を作っていきたいですか。
現在、本の価格が高くなっていて、電子書籍も増えているので、あえて紙の本で出すとしたらどういう本が手元に置いておきたくなるだろうということを考えて作っていきたいと思っています。小説だとカバー、表紙、帯、化粧扉(本文とは異なる紙やインクで印刷された、本文前のページ)とかに定型フォーマットが決まっていますが、判型(本のサイズ)や紙、加工、花布やスピンといった部品など、従来の本の形に縛られずに自由に考えて作っていけたらいいなと思います。
「無理に苦手なことを克服しなくても良い場所がきっとある」
――大学生の頃の経験が今に繋がっていると感じることはありますか。
通っていた学科がメディア学科みたいな感じで、ウェブの制作とか、AdobeのIllustratorやInDesignを使う授業があったんです。その中で、Illustratorを使うのが楽しいなと思って。その頃に印刷会社でアルバイトをしてフライヤー印刷のデザインに携わったことがきっかけで、デザインの仕事をしたいなと思ったんです。
――学生へのアドバイスをお願いします。
制作会社でデザイナーをしていたときはクライアントやアートディレクターの人にプレゼンをする機会も多くて、昔から話すのが苦手だったので、言葉で説明することがネックになっていたんです。でも、今の装幀の仕事は編集者さんとイラストレーターや写真家など少ない人数の間で完結することが多いので制作過程もシンプルですし、言葉ではなく実際にデザインを形にして伝えられます。
無理に苦手なことを克服しなくても良い場所がきっとあると思うので、いろいろ経験をしながら居心地の良い場所を探していってもらえたらと思います。チームワークが得意だったり、1人で仕事をするほうが楽だったり、人それぞれですからね。