2003年初演の「ミュージカル『テニスの王子様』」通称「テニミュ」を筆頭に、2.5次元ミュージカルの隆盛を牽引してきたネルケプランニング(ネルケ)。
今回はその黎明期から作品づくりに深く関わり、現在は代表取締役社長として精力的に活動している野上祥子さんにお話を伺った。
株式会社ネルケプランニング代表取締役社長。1998年にネルケプランニングに入社し、同社制作の舞台やTVアニメ、イベントのキャスティングを担当し、2016年に社長に就任。現在は社長業の他にも、「ミュージカル『テニスの王子様』」のプロデューサーをはじめ、ラジオDJなど幅広く活躍している。
“演じる”から“創る”へ、「演劇が好きでしょうがない」人生
——学生時代はどのように演劇と関わっていましたか。
小学4年生の時の学芸会で、台詞が一言しかない役をやったのですが、驚くほど楽しかったんです。その後、6年生の時にオーディションでメインの役を勝ち取って演じたのですが、その時の高揚感は本当に格別なものでした。そこで「ビビビッ」とくる衝撃を受けて、将来は演劇の世界で生きていこうって決めたんです。
——早稲田大学の学生演劇と関わりがあったそうですね。
高校生の時に熱中したのが「カムカムミニキーナ」という早稲田大学の「演劇倶楽部」から派生した劇団でした。高校2年生の時、初めて小劇場でその舞台を観た時に雷に打たれたような衝撃を受けて「絶対演劇で生きていくしかない」と改めて思ったんです。その思いから玉川大学の演劇専攻に進み、カムカムミニキーナに参加しました。当時、演劇を表現する手段は役者しかないと思い込んでいたのですが、看板俳優の八嶋智人(やしまのりと)さんから「制作を手伝ってほしい」と声をかけられて、そこから制作の仕事を始めました。そして現在に至るまで、一貫して演劇に関わり続けています。とにかく演劇が好きでしょうがないんです。
——ネルケプランニングに入社したきっかけは何ですか。
大学では子どものための表現教育にフォーカスし、演劇が子どもの心の成長にどう繋がるかという研究に没頭していました。同時に、とにかく「子どもたちに向けて演劇を作りたい」という強い思いを抱いていたんです。周囲が就職活動をする中、私はずっと演劇一筋。卒業後も教授の助手を務めながら、劇団活動と並行して子どもたちに芝居を教えたり、ワークショップでミュージカルを創ったりしていました。
ただ同時に、教室を持って生徒に教えたり、演劇を作ったりすることに対して対価をいただくというビジネスの難しさにも直面しました。当然生活は楽ではありませんでしたね。教育を仕事として成立させる厳しさを感じていたタイミングで、松田誠氏(同社ファウンダー)と再会しました。実は大学生のころ、既にネルケプランニングを設立していた松田氏が、劇団に興味を持ってくださり、一緒に制作をやる機会があったんです。当時も松田氏から「ネルケに来ないか」と熱心に誘っていただいたのですが、劇団も大学もあったため、そのときは一度お断りしていました。それから数年が経ち、再会した際に「ちょっとネルケ遊びに来なよ」と言われて足を運んだら、トントン拍子に話が進み、そのまま入社することになり今に至ります。
ところがいざ入社してみると、舞台ではなく「アニメの声優キャスティングをやってくれ」と言われ、正直動揺しました。声優さんの名前も決して詳しくない私が、どうすればいいのかと。けれど「表現することの本質は一緒。演劇が好き、この俳優さんが好きという自分の感覚を信じて向き合えばいいんだ」と気づいてからは、迷いが消えました。そこからアニメのキャスティングに全力を注ぎ、その積み重ねの中で、舞台のキャスティングも任せてもらえるように。結果としてアニメと舞台の両面で多くの方々と関わることになり、現在につながるキャリアを築くことができました。
社長として、プロデューサーとして
——普段、社長としてのお仕事は何をされていますか。
私は会社になるべくいようと思っているんです。経営者として、会社全体の経済面を考えながら、同時に社員の幸せも追求することが私の役割です。社員が幸せでなければ、いいものは生まれませんし、それが最終的にお客様の幸せに繋がると信じているからです。お客様と社員、どちらか一方ではなく、すべてが繋がっているというのが私の考え方です。ただ、今でも現場を持っていて、一人のプロデューサーとして作品に携わる一面も大事にしています。
——お仕事の中で、特にやりがいを感じるのはどんなときですか。
2.5次元ミュージカルには原作者の先生がゼロから生み出した「種」ともいえる素晴らしい原作があります。私たちは、その種をお借りして、舞台という場所でまた違う花を咲かせる作業をしているんです。もちろんそこにもやりがいがありますが、ネルケとしてゼロから企画を立ち上げるときは、また格別の喜びを感じます。ただ、それらすべてを含めて、やはり一番やりがいを感じるのは、劇場でお客様の反応を間近に感じるときかもしれません。お客様が何に興奮したり笑ったり、手を挙げてくださっているか。その喜ぶ顔が見えたり、あるいは熱量を背中からも感じたりする瞬間が、何よりの喜びですね。
——社員や俳優、現場スタッフの方々と関わるときに、意識していることはありますか。
劇団全体を「カンパニー」と呼びますが、その語源ってラテン語で「パンを共に食べる」という意味で、とても素敵だなと思うんです。私はいつもスタッフやキャストに「会社という組織も演劇という現場も、すべてはパンを共に食べる仲間であって、役割が違っても目指しているものは一緒」と話しています。全員が「お客様の幸せ」という同じベクトルを向いた1つのチームでありたい。その思いだけはブレないようにしています。もちろん、責任を取る立場としてプロデューサーや演出家は存在しますが、どのポジションの人が欠けても、作品は成立しません。とにかく多くの方に支えていただいているので、感謝を込めてなるべく声をかけるように心がけています。
——大学で学生に向けた講義活動も多く行われていますが、どのような気持ちで臨んでいますか。
大学生に「演劇は素晴らしいので観てください」と勧めるのではなく、「皆さんは何に心が動きますか?」と問いかけるようにしています。その「心が動くものの選択肢の1つに演劇というジャンルがあります」というような切り口でお話しています。また、伝えたいという一心で、自分自身も汗をかいて、喉を枯らすほどの熱量を持ってやっています。
——自分が感じた演劇の良さを学生に伝えたい思いがあるんですね。
そうですね。でも私が好きなものを皆さんも好きになってくださいというのは、少しおこがましい気がするんです。だから「私は自分の機嫌の取り方を知っています。それは大好きな演劇に関わることです。さて、皆さんが自分の機嫌を取りたいときはどうしますか?」って伝えています。そういったものを何か1つでも持っていることはとても大事です。特にキャリアについて考えている学生の皆さんにはぜひ伝えたいと思っていて。その1つの例として「私は演劇で、こんなことにトライしているよ」と伝えるようにしています。
2次元が2.5次元になるまで
——様々な企画を作っていらっしゃいますが、その案はどこから生まれていますか。
企画の始まり方には、いろいろなパターンがあります。「ミュージカル『テニスの王子様』」の場合は、原作を読んでいて、テニスラケットを振る動きがまるで踊っているかのようだ、という話が演出家の上島雪夫さんたちとの間で持ち上がったのがきっかけでした。その動きをミュージカルに落とし込めるのではないか、という発想から企画書を作って集英社の方に見ていただきました。ありがたいことに版元の方から舞台化の提案をいただくこともありますが、基本的には私たちが手を挙げ、企画を提案させていただく形が多いですね。
――どうして『テニスの王子様』をミュージカルという形式にしたのですか。
先ほども伝えたように、まずキャラクターの動きが踊りに見えたこと。そして白熱する面白い試合展開には、それぞれ固有のリズムがあると感じたからです。それならきっと音楽に乗せられますよね。たとえば、ラリーに合わせたビートを作り、その音楽に合わせて球を打つ演出ができれば面白いのではないか、という狙いがありました。加えて、勝敗が決したときの高揚感や悔しさといった心情を、歌に乗せて表現することで、より深くお客様に伝えられるのではないかという意図もあったようです。
——ミュージカルになる漫画の特徴はありますか。
共通しているのは、原作そのものが圧倒的に面白く、力があることです。私たちはそれを「演劇」にすることが仕事です。本来、それほど面白い原作であれば、原作単体で十分に完結しているんですよ。ですが、その素晴らしい原作をあえて演劇やミュージカルという手法で表現することで、作品の良さをさらに倍増させたいと考えています。ですから、私は「原作を超えよう」とは決して思いません。あくまで原作と舞台が引き起こす相乗効果を大切にしたいんです。原作ファンの方が舞台を観て「いいな」って思ってくださるのが第一ですし、逆に、出演している俳優さんのファンの方が舞台をきっかけに原作を読みたくなってくれたら、面白さは倍になりますよね。私たちの作品をきっかけに喜びが倍に広がり、作品を通じてどんどん繋がっていけばいいなと思っています。
——どういう人たちが作品制作に関わって、公演を創り上げているのですか。
企画によって様々ですが、たとえば「ミュージカル『テニスの王子様』」のような大きなプロジェクトだと、まず複数社による「製作委員会」を組織し、資金調達や興行の基盤づくりから始めます。
実際の現場(カンパニー)に関しては、「ミュージカル『テニスの王子様』」だと20人から30人のキャストに加え、さらに多くのスタッフが関わっています。照明、音響、ヘアメイク、衣裳の皆さんはもちろん、振付家やテニス指導、歌唱指導、ときには方言指導といった専門的な指導にあたる先生などもいらっしゃいます。クリエイター陣には演出家、脚本家、作詞家など、本当に多才で面白いスタッフが集まって創り上げています。
——舞台化の際の原作サイドとのやりとりはどのようにされていますか。
先ほどもお話しした通り、作品の「種」は原作にあるので、そこを勝手に変えてはいけないと強く思っています。原作者の方が伝えたかったことをきちんと読み解いた上で、演劇という形に落とし込んでいく。その姿勢を長年貫いてきたからこそ、版元の方々からも信頼を寄せていただけているのかな、と感じています。幸いなことに、これまで大きなトラブルになったことはほとんどありません。その根底にあるのはお互いへのリスペクトです。私たちが原作を大切にしているからこそ、原作サイドの方々も「演劇として面白いものを創る」という私たちを尊重し、こちらの提案を信頼してくださる。そんないい関係性が築けています。

「2.5次元ミュージカル」の確立
——2.5次元ミュージカルの国内外における役割とはなんだと思いますか。
演劇を観に行くハードルが下がったとよく言われます。もともと観劇は少し敷居が高い趣味のように思われがちでしたが、2.5次元ミュージカルは観客の年齢層を広げ、若い世代が演劇に行ってみようかなと思う大きなきっかけになりました。演劇のしきたりを詳しく知らなくても、「大好きな漫画が舞台になるなら行ってみたい」という入口ができ、これが演劇人口が増えるきっかけの1つになったと思います。
海外での立ち位置については、まさに今確立しているところだと思っています。ネルケは初期から海外公演に挑戦しており、確かな手応えを感じています。日本の漫画やアニメは世界中で翻訳され愛されていますから、世界的に人気のある作品を中心に、2.5次元ミュージカルというジャンルは国内外問わず着実に浸透してきたと思います。
実は、海外には漫画を原作に舞台化することがほとんどありません。だからこそ、国内外問わずに2・5次元ミュージカルというジャンルが知れ渡ることに大きな可能性を感じています。2024年には「『進撃の巨人』-the Musical-」のニューヨーク公演、2025年だと、「“Pretty Guardian Sailor Moon” The Super Live」のロンドン公演と北米ツアー、「ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』」の中国ツアー、というように、今まさに挑戦しています。こうした積み重ねによって、海外のお客様にも「ネルケが手がける舞台」を、少しずつ覚えていただけている気がしています。
——2.5次元ミュージカルが、エンタメとしてだけではなく、学びの対象になっていることをどのように考えていますか。
講義や研究の題材に取り上げていただけるのは、本当にありがたく、嬉しいことだと思っています。こうやって注目してもらえるのは、長く続けてきたという事実が大きいと思っています。20年以上続いている日本発のオリジナルコンテンツとしてのミュージカルとして、テニミュは非常に稀有な存在になりつつあります。既に23年目に入ろうとしているので、その歴史の積み重ねも研究対象としての扱いやすさに繋がっているのかもしれませんね。
——2.5次元ミュージカルに対する研究に期待していることはありますか。
無理に「学ばなきゃ」と思うのではなく、まずは作品に触れてもらえるだけで十分に嬉しいです。知ってもらえて初めて成立する世界ですから。実は、つくり手として作品に込めた思いや、願いはたくさんあります。でもそれを自分たちから全て説明することにあまり意味はないと思っているんです。なぜなら、エンターテインメントはつくり手のものではなく、お客様のものであってほしいから。何か学びがあったとお客様が思うのならそれが正解ですし、お客様が自由にイメージしていいものなんです。
ミュージカルは総合エンターテインメントなので、人によって注目する場所も楽しみ方も違っていい。学術的に見解を述べたり、自分なりに推理したり、正解がないからこそ面白い。それはお客様に委ねたいなと思っています。たとえば『テニスの王子様』の主人公・越前リョーマに対しても、100人いれば100通りの「理想の姿」があるはずです。100人が同じ考えではないかもしれませんが、皆さんに頷いていただけるポイントを必死に探しながらキャスティングをし、お芝居を創っています。お客様には自由に想像し続けてほしいです。
ネルケと2.5次元ミュージカルのこれから
——今後のネルケプランニングの展望について教えてください。
ネルケプランニングは設立から31年目を迎えましたが、今、特に力をいれているのは、先ほどもお伝えした海外展開です。海外公演は予期せぬトラブルなど課題も山積みですが、パスポートを常に持ち歩いている心意気で、いつでも世界に行ける準備をしていたいと思っています。
それから数年前から行っている「WELCOME KIDS PROJECT」も私にとって大切な活動です。ワークショップを通じて子どもたちと一緒に演劇を創ったり、子どもたちがより快適に観劇できるようにしたりしています。私は大学時代、子どもの表現教育を学び、ワークショップなどを通じて子どもたちと向き合ってきました。多感な時期に触れる演劇や表現は、この複雑な世の中を生きていく上で大事だと思っています。表現することは、人間ならではの特性であり、いわば「生きる練習」になると思うんです。生きていればつらいこともありますが、感情を表現することができれば、心が動き、自然と心の傷の治し方も分かってくる。それが今の時代を生きていく力になると思っています。
もう1つは「ネルケWESTプロジェクト」です。東京を中心に活動してきましたが、関西にもまだ見ぬ面白いクリエイターや若手役者、熱意ある才能がたくさん眠っているはずです。そうした人たちと出会い、関西ならではの熱量を演劇へと昇華させて、新たな関西発信のエンターテインメントを作りたいと思っています。実際に「神戸セーラーボーイズ」という全員10代の演劇ユニットを立ち上げています。東京にだけビジネスチャンスがあるわけではありません。関西でまず拠点を確立し、将来的には他の地方へも広げていけたらと考えています。
——今後の2.5次元ミュージカルの展望をお聞かせください。
思い切ったことを言うと、「2・5次元」という呼び名がなくなるくらい、当たり前のエンターテインメントとして定着し、日本のエンターテインメントが一枚岩になることが一番いいのかもしれない、と思っています。今、多くの会社が漫画、アニメ、ゲームを原作とした舞台をやっている。私たちはそれを脅威だとは思っていなくて、今こそ日本が手を組んで海外に向けて頑張るチャンスだと捉えています。競合がいるからこそ切磋琢磨でき、共に歩んでいける。そんな思いから、現在は「一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会」を通じて横の繋がりを広げ、アイデアを出し合いながら、業界全体を盛り上げようとしています。ブロードウェイなどの世界的な市場にも引けを取らない作品創りを目指しています。
——コロナ禍の舞台制作はどのようなものでしたか。
2020年の3月から見事に全てが止まってしまいました。5月に予定していた「ミュージカル『テニスの王子様』コンサート Dream Live 2020」という、大きなコンサートも中止せざるを得ませんでした。人を集めること自体が困難になったのは、本当に大きな痛手でした。ですが、「劇場の灯を絶やしてはいけない」と心に決め、とにかく動き続けました。積極的に配信事業に取り組んだり、家でも楽しめる施策を考えたりと、いつコロナが収束してもいいように準備だけは怠りませんでした。
コロナ禍前の2019年と2020年では状況が全く異なりますが、熱量は変わらなかったと思います。自粛期間中は社員を全員在宅勤務に切り替え、当時会長だった松田氏と私の2人だけが出社して「今できること」を模索し続けました。あの時に立ち止まるか、未来を見据えて走り出すかでは、その後の差は歴然です。「お客様が泣いているかもしれない」という思いを原動力に、「とにかく楽しいことを考えよう」と奮起していました。苦しい時期でしたが、配信を通じて新たなファン層が広がるなどプラスの側面もありました。Aプランがダメだったときに、いかに柔軟にBプランを選び取れるか。その大切さを痛感した期間でもありました。
——今後の2.5次元ミュージカルに必要なものは何だと思いますか。
つくり手のアイデアを、常にアップデートし続けることです。お客様の想像力や演劇を観る目、戯曲を読み解く力は、日々進化しています。だからこそ、スタッフサイドも止まってはいられません。2.5次元ミュージカルは、常に変化し続け、止まってはいけないんです。テニミュも長い歴史に甘んじることがあってはいけないと思っています。
『テニスの王子様』原作者の許斐(このみ)先生は、固定観念に全く囚われていない自由な発想で、多くの人を幸せにされています。私たちも過去に感謝しつつ、地道に、けれど常に革命的な姿勢でいたい。たとえ賛否両論があったとしても、新しいことに挑戦し続けることが大切だと思っています。
もちろん、長く愛してくださるお客様に悲しい思いをさせたくありませんが、いい意味で「びっくり」はしてほしい。ミュージカル『テニスの王子様』4thシーズンが始まった際、大きな変化に驚かれた方も多かったと思います。ですが、そこには「長く続けたいからこそ、過去をなぞるだけにはしたくない」という私たちの強い決意がありました。テニミュ4thシーズンからは、はじめて作品に触れる方にもその魅力が真っ直ぐ伝わるよう、より緻密に作ろうと方針を立てました。それでも『テニスの王子様』という原作が持つ本質的な力だけは、決して失わない。テニミュという作品を、私たちは、未来永劫、一生やり続けたいと心から願っています。
「I want to」が次の原動力になる
——読者の学生に向けて一言お願いします。
自分の機嫌を取ってあげられるのは、自分しかいません。だから、自分が何を好きなのかを知っておくことは、人生においてとても大切なことです。好きなことが仕事になれば幸せですが、それだけで食べていくのは簡単ではありません。私自身、今の環境は本当にレアケースだと思っています。学生さんは「好きなことを仕事にするには?」と悩むこともあるかもしれませんが、まずは「自分の機嫌を取れるもの」さえわかっていれば、どんな場所でもやっていけると思うんです。
だから “I want to” っていう「何々したい」という思いを持っていてほしい。それが次の場所に進むための絶対的な原動力になると思います。そして、鏡を見るように自分自身と向き合ってみてください。自分と向き合える人は人とも向き合えるし、人に向き合える人は自分にも向き合えます。特に演劇は、人と人が出会うことで成立する仕事です。
誰かがなにかを知る瞬間というのは、まるでモノクロの世界に鮮やかな色がパッとつくような素晴らしい体験です。だから「これがしたい」「あの人に会いたい」「これを知りたい」、そして「私はなにで元気になれるのかな」と。そうやって自分に向き合い、誰かに向き合うことが全部繋がっている気がします。