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「人生100年時代の学校」に迫る ~Life Redesign Collegeインタビュー~

Life Redesign College(以下LRC)とは、早稲田大学社会人教育事業室が50歳以上の人を対象に運営するプログラムである。LRCの取り組みについて、早稲田大学社会人教育事業室の川島治英(かわしまはるひで)さんとLRC3期生の髙坂功(こうさかいさお)さんにお話を伺った。

早稲田大学社会人教育事業室の川島治英さんへの取材

川島治英さん
川島治英さん

 

LRCの学びの形

ーーLRCを開始した理由や目標について教えてください。

 早稲田大学は創設時から在学生以外に対する教育にも非常に力を入れてきました。その一環で、プレシニア向けの講座として2022年に開講しました。シニアの方が幸福感や充実感を持って人生の後半を生きる社会をつくることが大きな目標で、会社などのしがらみのないところで新たなコミュニティを作れる場を提供したいと考えています。LRCは大学の学部と同じようにカリキュラムが決まっていますので、大学に入学するようなイメージになります。

 

――どのようなカリキュラムが組まれているのですか。

 講義には2つの科目群があり、Life Redesign科目群では今までの人生の振り返りや知識・経験の棚卸しを行った上で、これからの生き方をデザインするための土台となる知識や思考を学びます。専門科目群は社会課題、教養、表現・伝承の3領域があり、各領域から必修科目と選択必修と選択科目を履修していただく形です。クオーター制で、基本的に授業は火木土の午後がメインになっていますが、働いている方もいらっしゃるので土曜日だけでも修了できるようにカリキュラムを組んでいます。秋・冬学期はゼミナールに入って修了論文に近いものを仕上げていただきます。

 

――講師にはどのような方がいますか。

大学の先生だけでなく、企業の方やNPO法人の方もいらっしゃいます。受講生の方はいろんなバックボーンを持っていますので、なるべくバラエティーに富んだ形になるように考えております。オムニバスの授業などは現役の大学の先生にもお願いしております。

 

――受講生について教えてください。

 受講資格を50歳とした理由は、人生を100年と考えたとき50歳が後半のスタートで区切りもいいのではないかと思ったからです。仕事や子育ても一段落している方が多いと思います。実際のところ、60~65歳がボリュームゾーンになっていて、早稲田大学出身の方は3割か4割くらいで他大学出身の方が多いです。最近は知り合いの紹介という方も出てきております。卒業後はNPOの活動などに積極的に参加される方や大学院に進まれる方もいらっしゃいます。

講義などを行うホール
講義などを行うホール

 

受講生同士の交流

――クラスワークとは何ですか。

 原則参加することになっている、いわばホームルームのようなものです。LRCの大きな特徴の一つだと思います。クラスごとに先生の指導のもとで一つのテーマを議論するなどの活動を通じて、受講生同士のコミュニティ形成を図ります。2週に1回、1年を通してディスカッションしながら交流を深めています。

 

――講義やクラスワーク以外にはどのような交流の機会がありますか。

 現在(2024年12月20日)17個のサークルがあって、2022年に入学した1期生から2024年の3期生まで縦の繋がりを設けることができています。生成AIの研究会、山歩きの会、ラグビー愛好者のサークルなど様々なものがあります。事務局主催の課外活動もあり、春は早慶戦、冬はラグビーの早明戦に行くなど、早稲田ならではの課外活動を実施しています。また、5月と9月にはスタディツアーというイベントもあって、様々な活動をしている企業やNPO法人などに実際に見学に行って話を聞く機会を設けております。

 

――卒業後も何か支援はあるのでしょうか。

 卒業後はアルムナイ会員という形で、一定の会費を支払っていただくことでエクステンションセンター(https://www.wuext.waseda.jp/)の講座の受講料割引、日本橋キャンパスの利用、図書館の閲覧利用などのサービスを設けています。講演会やイベントへの参加も可能で、早慶戦や早明戦などに参加を希望する卒業生の方のチケットや席をLRCの事務局が確保しています。

 

LRCの今後

――今後の取り組みについて教えてください。

 2025年からLRCの修了者を対象にAdvancedコースを設置し、さらに深い内容について学習を継続していただく場を設けることにしております。金曜日の午後の授業に参加するだけで修了できます。グループでテーマを決めて成果発表を行うワークショップ(春・夏学期)とゼミナール活動(秋・冬学期)を中心とする予定です。アルムナイ制度が同窓会員に対するサービスのようなものであるのに対し、Advancedコースは大学院のような位置づけになっています。

 

――募集定員の拡大は予定していますか。

 非常に多くの方から申し込みをいただいているので、できる限り多くの方にサービスを提供したいとは考えているのですが、教室の数などにも限りがあるので難しいと思っています。また、人数を増やすことによって授業の満足度が落ちる可能性もあるのではないかと考えております。今の規模だから、普通の講義科目でもグループワークを取り入れるなど、双方向の授業ができていると思います。現在の良い点を残しつつ定員を拡大していくことが大きな目標です。

 

LRC3期生の髙坂功さんへの取材

髙坂功さん
髙坂功さん

 

LRCでしか学べないこと

――髙坂さんのご経歴を教えてください。

 年齢は67歳で(2025年1月18日現在)、大学に入ったのが1976年、就職したのが1980年です。60歳で転職をして、66歳になってそろそろ仕事もいいかなと思いました。60歳から65歳まで京都にいたのですが、東京のオフィスに戻ったときに辟易としたのが通勤ラッシュです。京都にいるときはストレスなく通勤していましたが、東京は通勤電車がいつもぎゅうぎゅうでちょっとしんどいなって思ったんです。それにいずれ体力も気力も衰えると思いました。80歳になった頃にこんなことをしておけば良かったと後悔したくないので、もっと自分のしたいことをしてもいいんじゃないかなという理由もあり、2023年の初めくらいにあと1年仕事をして辞めようと考えました。LRCに申し込もうと思ったのが2023年11月、12月くらいで、2024年1月に合格の通知があって、2024年2月に会社を辞めて4月からここに来ています。

 

――なぜLRCに入学しようと思ったのですか。

 この年になって会社を辞めて、いきなり地域のコミュニティや町内会に入るのはちょっと無理だなと思っていました。その前段階でもう少しステップが踏めるような場所が欲しいなと。会社ってずっと一緒に働いてる人たちばかりだから、物の見方とか考え方とかがすごく似通ってきて、なおかつ変なしがらみのようなものができちゃいますよね。でも、LRCでは会社で培ってきた対人アプローチとはもっと違う方法が見つかるんじゃないかという期待がありました。また、社会課題に取り組みたいと考えていたので、ここがとても良いんじゃないかと思いました。

 

――実際にLRCに入学して良かったことは何ですか。

 変なしがらみもないから新しい友達もいっぱいできたし、サークル活動もあるし、飲み会もたくさんあるし、社会人になって今が1番面白いかなって気もしていますその時その時面白いことがあったけど、今が1番自由度が高くて面白いなと思ってます。勉強したいからお金を払って来てるけど、勉強プラスの何かを自分も含めてみんな求めてる。勉強だけだったらLRCじゃなくて他の大学でも良かったのかなとは思います。

教室
教室

 

能動的な学習

――どのような講義が印象的でしたか。

 早稲田大学ボランティアセンターの兵藤先生の社会貢献ガイドという講義が印象的で面白かったです。東京オリンピック・パラリンピックのときにスポーツ関係のボランティアをしたいと思ってたんですけど、ちょうど2021年は京都にいたので何もできませんでした。それで、兵藤先生の授業が元々興味関心のあったボランティアや障がい者スポーツを取り上げていたので、とても印象に残っているんだと思います。実は去年の夏くらいからいろんな研修やイベントに通って、今ちょうどパラスポーツや障がい者スポーツのボランティアを始めたところなんです。

 

――ボランティアに関わる活動は他にもありますか。

 ボランティアの入り口になりそうな活動として、スタディツアーというものがあります。LRCで様々なテーマを用意していただいて、希望者が見学に行くツアーです。僕は春学期に山梨県の丹波山村に行きました。人口500人くらいの小さな村で、どんな村おこしや地域おこしが行われているのかを勉強に行くツアーです。夏学期に行ったのは福島です。原発事故の影響を受けて現在何が元に戻っているのか、何が変わってしまったのか、状況を見学するために参加しました。なかなかそういう機会がないと個人で行って話を聞こうなんてできないので。

 

受講生や先生との交流

――どのようなサークルで活動していますか。

 所属しているサークルが4つあります。1つ目は山歩きの会。これはいわゆる登山ではなく、低山を歩き、その魅力を発見し楽しむことが一番の目的です。2つ目は朗読のサークルで、いろんな本や詩を朗読したり、ラジオドラマを演じたりしています。発表会では参加者それぞれが選んできた本や詩や小説を1人2役とか3役しながら5分~10分くらいで朗読しました。3つ目はエンタメ会で、大相撲、競馬、観劇、ジャズ、町歩きなどのグループがあって毎月活動しています。4つ目は生成AIの研究会で、テーマの1つは「修了論文にAIをどう使うか」です。AIに修了論文を書かせるわけにはいかないけど、「どこから手をつけたらいいだろうか」「内容の抜け漏れはないか」「もっと違う見方があるんじゃないか」というときに役に立つ。いつもAIが正しいとは限らないので最後は自分で判断しなきゃいけないけど、自分と違う見方を提示してくれるのはありがたいなとサークル活動を通して思いました。

 LRCは入学資格が50歳以上なので、ちょうど50歳のクラスメイトもいるし、上は70過ぎてる人も何人もいます。サークルには入学年度が異なる先輩がいますけど、年齢的にはバラバラなので先輩に敬語使うとかはなく、お互いLRCでのニックネームを決めて呼び合っています。

 基本的にはやりたいことをやろうと思っていて。変な使命感とか義務とか責任とかはもう今は考えなくていいよね、という気持ちでいるから面白いものは純粋に面白い。無理して自分がやることじゃないものはやらない。無責任に聞こえるかもしれないけど、そんな感じですね。

 

――先生方とはどのように関わっていますか。

 3期生は20人ずつのクラスが4つあって、クラスごとに担当の先生が1人います。大体、定年された名誉教授の方だったりするので、ちょっと上だけど比較的近い年齢の先生です。ゼミも同じような感じですね。世代間のギャップみたいなことをほぼ感じずに日常的に会話ができるのは学部とだいぶ違うかなと感じます。私のクラスの先生は土田先生という文学部の論語の先生で、論語の世界ではものすごく有名な方です。とても気さくな方で話も面白い。そういう先生に直接講義をしていただく機会はなかなか無いので、そういう意味ではLRCってラッキーだなと思います。

 

――ゼミナールについて教えてください。

 社会課題の解決っていうゼミを取っていて、3月初めに修了論文を提出して、3月の半ばに早稲田キャンパスで発表会をすることになっています。LRCは先生がたくさんいらっしゃるわけではないので、修了論文のテーマが先生の専門と必ずしも被るとは限りません。ですが、先生からまとめ方や目の付けどころの指導や、提出後には意見をいただいています。

 

ラウンジ
ラウンジ

 

今後の展望

――卒業後は何をしたいですか。

 Advancedコースに申し込んだので、もう1年間LRCに参加します。2年目はグループワークやゼミに加えて、LRC1年目のコースで取れなかった科目も取っていいというスタンスです。日本橋キャンパスに来る日数や時間がぐっと減る見込みなので、今までたくさんはできなかったボランティアの活動をもうちょっと真剣にやりたいと思っています。2年目は授業が金曜日だけなので、週末にもっといろんな活動ができるかなと期待しています。

 

学生へのメッセージ

――大学生のうちにやっておいた方がいいことはありますか

 自分が就職した頃を振り返ると、当時は人気があった会社の多くが今ではそうでなくなっているし、当時は無かった会社が今トップになっているところもいっぱいある。そうやってどんどん変わっていくんだって考えると、いい会社に入ることを目的にした勉強とか部活は無駄ではないけど、もっと時間をかけて、自分が大事だと思うことをやったらいいんじゃないかな。それはパフォーマンスが悪いかもしれないけど、決して無駄じゃないと思います。

 

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