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私たちが熱狂する理由 映像×音楽 映像作家 和久井幸一

まるで演奏者と一体化したような感覚をもたらし、撮影時に漂う空気までもを感じさせる映像がそこにはある――。今回、数多くの生演奏の映像を撮影されている早稲田大学出身の映像作家・和久井幸一さんにお話を伺いました。「生の身体感」のある唯一無二の映像はどのように生み出されているのか。映像制作にかける想い、そして現在のお仕事に繋がる早大生時代の思い出とは。

生演奏の撮影とは

――映像作家として、具体的にどのようなジャンルの映像を撮っていますか?

大きく分けて2種類で、お金を稼ぐための撮影と、自分の作品づくりとしての撮影があります。お金を稼ぐための撮影は、記録映像を撮る仕事が非常に多いです。 具体的に言うと、イベントやホームページ用の映像撮影ですね。早稲田大学からも仕事をいただくことが多いんですけど、シンポジウムや講演会の記録映像を撮ったり、早稲田大学の近くにある草間彌生美術館のアーカイブ映像を撮ったりしています。

自分の作品づくりとしての撮影には、「生演奏の撮影」に今すごく興味を持っています。場所をセッティングして、演奏者と自分がいて、カメラを回して1曲撮る。そこで何が起こるのか、演奏が終わるまで自分がどのように目線を送ったかというのを映像として残すことに興味があるんです。それが、今の自分の核になっている部分かなと思います。

 

――生演奏の撮影の流れを、具体的に教えてください。

自分からオファーすることもあれば、相手からオファーされることもありますが、まず演奏者と何の曲を撮るのか相談します。そして、場所をセッティングして、照明、録音、カメラを仕込んで準備を整えます。「用意、スタート」で手を叩いて録画を始めて、1曲そのまま撮り、最後にもう1回手を叩いて録画を終わります。1テイクずつ撮って、OKテイクを選んで編集して、音を整え色を塗って公開するっていうのが、おおまかな流れになりますね。  

 

連続した視線を残す

――特に印象に残っている生演奏の撮影について教えてください。

2017年7月の平櫛田中邸での生演奏ですね。彫刻家の平櫛田中のアトリエだった場所で撮影したんです。大きな窓ガラスがあって自然光がバーンと入るんですけど、彼はそこで鏡獅子という大きな像を掘っていて。僕も彫刻を掘るように、カメラを彫刻刀みたいに使って削り出すように映像を撮りたいと思って、平櫛田中邸を選びました。

 

MV監督

『よるべ live recording at 平櫛田中邸』 映像:和久井幸一

 

――光を意識して映像に取り入れているということでしょうか?

単純に明るい場所だと綺麗に撮れるというのもあるんですけど、光を演出効果として使うことが非常に多いですね。中銀カプセルタワーで生演奏の撮影をしたときは、音楽の進行に合わせて逆光を入れるために、窓ガラスから部屋に入ってくる夕日を使ってました。逆光が好きなんですよね、天国に抜ける光みたいで。 ここではないどこか遠くの場所に、視点がいくようにしたいときに光を使っています。偶発的な光とかアクシデントとか、思わぬことでジャンプできる瞬間を求めていて、それは生演奏だからこそ起こりうることだと思っています。

 

――映像を制作していてやりがいを感じる瞬間を教えてください。

演奏者と一体となってパフォーマンスできた瞬間ですね。「用意、スタート」で録画ボタンを押してから、撮り終わって録画ボタンを押すまで、緊張した5~10分間が流れる中で、演奏者と一緒に曲を作り上げる意識を持っています。演奏者に近寄ったり離れたりして、一緒にセッションしていると言ってもいいかもしれません。100テイクくらい撮っていると1、2回くらい「これはいいセッションができたな、いいテイクがとれたな」っていう瞬間があるんです。その瞬間がすごく気持ちよくて、救われたような気分になりますね。

 

――ご自身の映像制作の強みを教えてください。

映像に生の身体感があることですね。カメラを手持ちして撮ることで、三脚での撮影と違って自分の一挙手一投足がカメラに刻まれる。だから、自分の全身をカメラに封じ込めて、踊るような意識で撮っています。あるものを見て心が動かされる場面って当然あるじゃないですか。日本語でも外国語でも、言葉では言い表せないような。自分にとってカメラはもう1つの言語として、胸に湧き上がってくる言葉では表せないものを形作ることができるものだと思っています。写真は瞬間的な視点を残すものだけど、動画、特にワンカットの動画は連続した視線を残せる。だから、ワンカットでしか起こりえないような、一筆書きの視線を残したいと考えて撮っています。

 

MV監督

映像作家を志し始めた学生時代

――和久井さんは早稲田大学のご出身とのことですが、大学時代はどのようなサークルに所属していましたか?

早稲田大学映画研究会、早稲田大学短歌会、早稲田大学スペイン語研究会、あとは早稲田大学ちんどん研究会の4つに入ってました。主に活動してたのは映画研究会です。最初は自分で映像を撮ろうとは思っていなかったんですけど、映画研究会では1年生に1本必ず撮らせるんですよね。そこでカメラを渡されて撮ってみたら面白くて、虜になった感じでした。

 

――大学時代、和久井さんが大きな影響を受けたという飲み屋について教えてください。

西荻窪にある、週に1、2回ライブをやっている「のみ亭」という飲み屋さんに足繫く通っていました。 ある日、善福寺公園で自分の映画の撮影をしたんですが、あんまりうまくいかなくて落ち込んでいたんです。帰り道に、その飲み屋さんでライブをやっていたので行ってみました。 そのライブが面白くて、終わった後にライブの人たちと飲んでいたら、「今度ミュージシャンがいっぱい来るイベントがあるから撮影しに来てよ」と誘われたんです。そこで知り合った人たちが、東京を拠点にケルト音楽をやられている方たちだったんです。 その飲み屋がきっかけで、他にもいろんな人と知り合うことができました。自分にとって、「のみ亭」は伝説です。 自分の家に「のみ亭」の看板や椅子を預かっています。ものすごく影響を受けました。

 

――カメラに携わる職業に就くと決めたきっかけも、その飲み屋なんですか?

そうですね。 カウンターで飲んでいたとき、早稲田の偉い人が隣にやってきて、マスターがつないでくれたんです。「映像やってる和久井君だよ」って。それをきっかけに、一番最初は5万円の仕事をもらいました。そこで5万円以上の働きをして、気に入ってもらえたんです。それで仕事が10年以上コンスタントに続いていて、ギャラも何倍にもなっています。だから、未だに「のみ亭」に生かされてるなと感じます。

 

ずっと道は続いている

――MV『道』で意識したことはありますか?

『道』を作った2016年くらいは自分がちょうどカメラマンの駆け出しでお金を稼ぎ始めた頃で、僕の「カメラマンになる」という宣言みたいな感じで撮り始めました。人がずっと歩く姿を後ろから撮るという作品なんですよね。僕は1年間スペインに留学してたんですけど、夜中に1人で橋の上を歩いてるときに、「今歩いてる道も東京の道に続いているし、結局地球の裏側に来ても寂しくて1人のままだな」って思って。そういった、ずっと地続きの感覚を作品のモチーフにしました。

 

――MV『道』の映像は冒頭と最後が同じシーンですが、それはどのような意図があったんですか?

 ぐるぐる回るような、ループさせるようなイメージでした。都会の喧騒に疲れて田舎に行くのは楽しいけれど、ただの現実逃避になるのは嫌だと思ったんです。結局はまた都会に帰るんだっていう風にしたかった。あとは、自分がスペインに留学する前は桃源郷に行くような感覚だったんですが、結局生活してみたら東京と似たような部分が多くて。どこまで行っても結局自分の人生だなという感覚があったので、その意味ともリンクさせました。

 

MV監督

MV『道』 映像:和久井幸一

 

――今後、どのような映像作品を撮っていきたいですか?

 軸は2つあります。1つ目は生演奏をたくさん撮っていきたい。「あの時、自分がこう見た」「あの人をこう撮った」っていう視線をどんどん蓄積させていきたいという気持ちがあるんですよね。 自分の物差しとか目線がどんどんカメラに刻まれてくる感じが面白い。2つ目は、ドキュメンタリーですね。ドキュメンタリーにしても、フィクションにしても、どうしても作為的な作品になっちゃうので避けていたんです。でも去年あるバンドの海外ツアーに帯同して撮ったドキュメンタリーが自分の中で非常に手応えがあったので、ドキュメンタリーももっとやってみたいなと思っています。

 

「成長とは薄紙一枚」

――最後に、大学生へメッセージをお願いします。

 僕が昔映画について教わった高寺彰彦という漫画家が「成長とは薄紙一枚だ」とよく言っていました。 毎日毎日薄紙を積み重ねるようにしか成長できなくて、本当に自分って成長してるのか、ちゃんと先に進めてるのか、不安になると思うんですよ。実際、学生時代の自分もそうだったし。一生懸命頑張ってはいるけど「こんなのを撮ったって何になるんだろう?」ってことを思っていて。まあ、撮ることはやめなかったんですけどね。今思えば、やっぱりそれは確実に自分の成長の厚みにはなっていて。塵も積もれば山となるといいますか、 一枚一枚積み重ねれば、確かな厚みとなって自分の支え、土台になる。 頑張ってじたばたしたい。 自分にもそう言い聞かせています。一緒にお互い頑張りましょう。ずっとその繰り返しですから。 道と一緒でずっと歩いていくしかない。

 

和久井幸一

カメラマン 1988年千葉県出身 早稲田大学 文化構想学部 文芸ジャーナリズム論系卒業 在学中はスペイン文学と構造言語学を学び、スペイン語を得意とする。