MVのつくりかた
――MV制作の流れを教えてください。
仕事の始まりは2パターンあります。レコード会社のレーベルに所属されているアーティストの担当の方から直接依頼されるパターンと、制作会社から依頼されてそこのプロデューサーが制作進行をしてくれるパターンです。最初のパターンは、僕から制作会社を指名してプロデューサーにお願いします。まずはMVの企画を考えて「こう撮ったら面白いと思いますよ」と提案します。その後は演出コンテを作って、同時にカメラマン、照明、美術とか、いろいろなスタッフをアサインして撮影に臨みますね。撮影が終わったら、編集やCG制作などの作業をスタッフと一緒にやっていきます。
――MV監督として、具体的にどのような指示を出しますか?
演出は1人で考えます。企画書が通った頃から、スタッフをアサインし始めて、「この企画だったらこのカメラマンに撮ってもらった方がいいな」とか、「合成が多い作品だからこういうカメラマンがいい」、「ロケの自然光で撮るのがうまい人がいいからあのカメラマン」、という風に撮影に向けて準備していきますね。
MVはふざけたいなと思っていた
――SEKAI NO OWARIのMVをたくさん担当されていますが、アイデアはどのように考えましたか?
最初に撮ったのが『RPG』という曲で。初めて仕事するときは、SEKAI NO OWARIって変な名前のバンドだなって思いました(笑)。でもそんな退廃的なバンド名の割にすごいポジティブで、希望に溢れる曲だなって。ニュアンスが難しいんですけど、まっすぐポジティブな曲をそのまま表現し過ぎると、ちょっと恥ずかしい感じがあって、MVは何かふざけたいなと思っていたんですね。そこで、最後にメンバーみんなでダンスをする場面があるんですけど、「踊ってるのは本当はダンサー」という演出をしたんです。気付いた人に「これメンバーが踊ってないじゃん!」ってツッコんでほしくて。
いつも思うのは、MVって当然音楽が先にあって、それを映像で表現するんですけど、歌詞や曲の世界観をそのまま映像にするのはアーティストに失礼だなと。 まるで曲に足りないところがあるから、映像で補完しているように見えるじゃないですか。だから、ちょっと外す部分をわざと作ります。 音楽は音楽で、MVはその音楽を使った映像作品として、また別のものとして楽しんでもらえた方がいいだろうなと思ってますね。
――SEKAI NO OWARIの『炎と森のカーニバル』にはどういったこだわりがあったのでしょうか?
曲のタイトルがカーニバルですから、MVはサーカス感を出しました。ワンカットの中に、火を吹く人がいたり、バレリーナが出てきたりと、次々といろんなことが起こる感じが出せたら面白いかなあと思って撮りました。
――きゃりーぱみゅぱみゅの作品も数多く手掛けられていますが、どのように制作に臨みましたか?
きゃりーぱみゅぱみゅは、もともと面白い女子高生だというのは聞いていたんですけど、実際に会ってみるとすごい変な子だなって思って。目玉みたいなアクセサリーとか、みんなが気持ち悪いと感じるものが好きだったり、いろんなものを「かわいい」とポジティブに捉える方なんです。その面白い人となりを映像にできたら面白くなるだろうなと思って考えたのが『PONPONPON』というデビュー曲のMVです。僕から面白いと思って出したアイデアを使うというよりかは、本人の面白さを画面に最大限出すためにはどうしたらいいかを考えて作りました。
――田向さんご自身の印象に残っている作品はありますか?
くるりの『Liberty & Gravity』のMVですね。当時、ボーカルの岸田さんから「ちょっと変な曲ができたので、田向さんにぜひビデオを撮ってもらいたいです」ってXにDMが来たんです。 こんなこと普通はないんですけど、僕も元々ファンだったから何も考えずにやりますって返しました(笑)。実際に聞いてみたら本当にすごく変な曲で、ファンからも変な曲って呼ばれてたんで、変わったMVを作らないとなぁと。めっちゃ変なMVのアイデアを岸田さんに見せたら、めちゃくちゃいいって言ってくれたんです。
撮影は楽しかったけど、とても過酷でした。朝6時ぐらいにスタジオに集合して、同じ日にMVを2本撮らなくてはいけなかったんです。朝から撮って、夜中の24時ぐらいに終わる予定だったんですが、1曲目を撮り終わったのは 夜中の2時ぐらいで。今からもう1曲撮るのか、と(笑)。結局朝6時ぐらいまでかかってしまいました。メンバーの楽器をMVで使ってるんですけど、くるりがその後ライブで地方に行かなくてはならなかったので、その楽器を運ぶためのトラックに撮影が終わるまで待ってもらったんです。でも、トラックの運転手さんは「頑張ってよ」って言って待っていてくれて、すごく思い出に残ってますね。
――ちなみにその撮影で工夫されたことはありますか?
ふつうは曲を色んなカメラで撮って、編集で使えるか決めることが多いんです。でもこの曲の場合は、冒頭から全部「ここはこのアングル」みたいに決めていきました。しかも1カットが長回しなので、最初のカットが成功しても次のカットが前のカットと繋がるか確認しながら撮らなくてはいけないんです。だから、真面目に冒頭から撮っていくしかなかったですね。
ワンカットが表す気合いと生み出す想像
――ご自身の映像制作の強み、作品の特徴はありますか?
自分でCGを作れるのが強みなのかなと思います。MVは予算がそんなに潤沢じゃなくて、総予算はCMの10分の1くらいなんです。普通の監督だったらMVでCGを使いたくても予算が足りなくて諦めることがあると思うんですけど、僕の場合は自分で頑張ってCGを作れるんです。
――CGはどのようにして制作できるようになったのですか?
美術大学を出た後に1度デザイン会社に入って、その後映像会社に入ったんです。社員を募集してないところに「入りたいです」って言ったら入れてもらえて。でも全く仕事がない期間が3ヶ月くらいあったんですよね。その時にたまたま自分の席のパソコンに入っていたCGソフトを勝手にいじっていました。朝9時ぐらいに出社してずっとCGを勉強して、朝5時くらいに帰る生活を送っていました。そうしたらいろいろなものを作れるようになって、社員さんに「じゃあこれのCG作ってよ」と言ってもらえて、ちゃんと仕事がもらえるようになったなと感じました。
――田向さんは、ワンカットの作品が多い印象があります。
どうしてワンカットが好きなのかというのは僕も最近考えていて。自分なりに分析して思ったのは、やっぱり嘘のつけない感じがあるからかなと思います。ワンカットって言ってしまえば縛りプレイなんですよね。ロールプレイングゲームで言うところの、「武器は一切買わずに最後のボスまで倒す」みたいな、楽なことをやらずにいっぺんに作っちゃえっていう縛り。それなのにワンカットに名作と言われる作品が多いのは、演者、スタッフのかける思いや気合いが映像に現れるからでしょうね。作品を観る人も、「ワンカットで撮っているということは、この演者はこの間に後ろを走っていたんじゃないかな」とか、想像しながらMVを観ることができる。だから自分はワンカットが好きなのかなあと思うようになりました。
――MVを作っていて楽しいと感じるのはどんな瞬間ですか?
YouTubeのコメントや、最近だとプレミア公開のチャットを見ると頑張ってMVを作って良かったなって思います。貶されることはそんなにないんですけどね。大学の時に中島信也さんという有名なCM監督の授業を取っていて、みんなで作った映像を最後に観る機会があったんです。映像をDVテープで提出して、中島さんがそれをシャッフルして流していく形でした。笑えるものもあれば「すげえ、こんなの作ったんだ」みたいな作品もあるのがめっちゃ楽しくて。さらに僕が自分の作品を「どんなリアクションがあるかな」とか「すごいって言ってもらえるかな」とか考えて。ドキドキしながらも自分の映像が上映されると、「すげえじゃん」って言われるのがすごい嬉しかったです。大学の授業で二十何人でやったことが、今はYouTubeで同じことが起こって何万人がすごいって言ってくれる。結局学生の頃から変わってなくて、1番楽しい瞬間です。
「楽しい」は最強の武器
――最後に、大学生へメッセージをお願いします。
楽しいことを仕事にできたら勝ちだなって思いますね。よくXで「月曜起きただけで偉い」「仕事行くの辛い」みたいなことをみんなつぶやいているけれど、そんな人生は辛すぎるなと思って。楽しいことを仕事にすれば、多少給料が安くてもその楽しさに勝るものはない。仕事って何十年も続くものじゃないですか。だから楽しくないとやってられないなって思います。
僕はずっと楽しんで仕事しているんです。何も仕事がなければ僕はずっとゲームをやっていると思うんですけど、仕事もそれと変わらないというか。ずっと映像を作っていられるんです。徹夜だって楽しい。逆に、食べていくために嫌な仕事をする人をすごいと思っています。そんなこと僕にはできない。
給料よりも何よりも、楽しいことを仕事にする以上に大事なことはないんじゃないかと思います。そこは絶対妥協しない方がいいなと思うんですよね。そこで人生が変わるんだろうなってすごく思います。
田向潤