1967年創立 早稲田で一番アツい出版サークル マスコミ研究会! 企画・取材・デザイン・文芸、好きな分科会で自由に活動しよう!

装幀家の岡本歌織さんにインタビュー ~本を彩るお仕事~

――学校の帰り道、何気なく本屋に立ち寄ってみた。特に買いたい本は決まっていないけれど、一冊の本が目に留まった――
たくさん並んでいる本の中で、その本が気になったのはなぜだろう?
タイトル、表紙、帯……きっかけはたくさんあるはず。そういった魅力を伝えるために、本のデザイン制作に携わる人たちがいます。そこで、今年刊行された森見登美彦『シャーロック・ホームズの凱旋』の装幀を手がけた、装幀家の岡本歌織さんにお話を伺いました。

【プロフィール】
東京都生まれ。広告制作会社、株式会社bookwallを経て、2015年よりnext door designに所属。『かがみの孤城』などの文芸書を中心に数多くの書籍の装幀を手がけている。
 

【『シャーロック・ホームズの凱旋』(中央公論新社)】
2024年刊行の森見登美彦による長編小説。あの名探偵シャーロック・ホームズが架空の街「ヴィクトリア朝京都」で大スランプに陥り、ホームズシリーズおなじみの登場人物たちとともに摩訶不思議な謎に対峙していく異色の物語。(装画:森優 装幀:岡本歌織)


「好きなことをやってるとあんまり辛さは感じないんですよ」

――岡本さんが装幀の仕事を始めたきっかけは何ですか。
 初めて勤めた会社ではカタログやパンフレットのデザインをしていました。毎日徹夜で忙しくて大変だったんですけど、自分の好きなジャンルのデザインだったら頑張れるかなと思い、会社を辞めて前の職場の装幀事務所に入ったのがきっかけです。結局、仕事は今も忙しいんですけどね(笑)。それでも好きなことをやってると、あんまり辛さは感じないんですよ。

『シャーロック・ホームズの凱旋』カバーイラスト
『シャーロック・ホームズの凱旋』カバーイラスト

――どのくらいのペースで装幀を制作されるのですか。
 月に10冊くらい本を作っています。毎週2、3冊くらい原稿を読まなきゃいけないので、話題の本とかをちゃんと読みたいなと思っても時間がなくて難しいです。

――今まで手がけた装幀で特に記憶に残っているものはありますか。
 今私がいるnext door designは個人事業みたいな感じで、自分の責任でデザインを進めていくので最初は不安でした。それでも、辻村深月さんの『かがみの孤城』森見登美彦さんの『夜行』の装幀依頼を早い段階でいただいたことは自信に繋がったような気がします。辻村さんも森見さんもすごく人気な作家さんなので「自分にできるかな」みたいなプレッシャーがあったんですけど、こだわって作れました。


『シャーロック・ホームズの凱旋』の装幀制作秘話

――『シャーロック・ホームズの凱旋』の装幀はどのように制作されたのでしょうか。
 通常は刊行月の3~4ヶ月前に依頼をいただいて、1~2ヶ月で制作することが多いのですが、この本は3年前の2021年頃に依頼をいただいたと思います。この本には個性豊かなキャラクターがたくさん登場するので、キャラクターを描き分けられるイラストレーターさんを探すことになったんです。私が提案した5~6人の候補の中から、編集者や出版社の営業の方などと話し合って、森優さんに装画をお願いすることになりました。

――岡本さんがイラストレーターさんを探して提案されるのですね。
 はい。デザイナーがイラストレーターさんを提案することが多いです。イラストレーターさんってものすごい数いらっしゃるので、普段からSNSを徘徊して気になる人をブックマークしています。ときどき、イラストにこだわりがある作家さんから「この人に描いてもらいたい」と提案されることもあります。同じ作家さんの作品でも出版社が変わるとイラストレーターさんも変えることが多いですね。

――イラストのデザイン制作について教えてください。
 最初に、森優さんにキャラクターデザインを考えてもらったんです。第一弾のデザインは完成版とだいぶ印象が違っていて、「もうちょっと(絵柄が)ゆるい感じがいい」などのコメントを編集者さんからいただきました。その意図を汲み取って森さんが見事に描き直してくださって、第二弾はかなり緩やかな顔になりましたね。

第一弾のキャラクターデザイン

 同時に、カバーデザインについて話し合いました。編集者さんからは「シャーロック・ホームズの話だとわかる絵にしてほしい」「森見さんのファンやホームズ好きだけでなく、幅広い層の読者の方に手に取っていただけるように楽しそうな雰囲気を出してほしい」とのことでした。なので横顔のホームズをメインに使いつつ、後ろにヴィクトリア朝京都の街並みや他のキャラクターを組み合わせることを提案しました。

――物語の舞台である「ヴィクトリア朝京都」はどのように考えましたか。
 森さんと編集者さんと3人で「ヴィクトリア朝京都って何なんだろう」というのをすごく話しました(笑)。基本的に京都寄りの和風な雰囲気だけど、ちょっとだけ明治大正ロマンの雰囲気も入ってるんじゃないか、みたいな。そこで、まず私がたたき台みたいなデザイン案をいくつか出しました。街並みを描いたデザインとか、煙の中にいろんなシーンが入っているデザインとか。結局2つの案をくっつけたデザインになりました。

様々なデザイン案