早稲田に通う学生の皆さん。早稲田大学学生相談室をご存じですか? 学生相談室は、学生生活のことなら何でも相談できる場所です。
この記事では、学生相談室で勤務されている臨床心理士の樫木 啓二(かしのき・けいじ)課長と中川浩子(なかがわ・ひろこ)さんの仕事に対する想いをお届けします。
相談室の利用方法も合わせてご覧いただき、学生相談室のことをより知ってもらえればと思います。
学生相談室ってどんな場所?
学生相談室は保健センターという組織の中に入っています。
その中で学生相談室は、一人ひとりの学生さんが自分らしい学生生活を送れるように、そして社会に旅立っていけるようにサポートしています。
25-2号館6階に一番規模の大きな相談室があり、戸山・西早稲田・所沢の各キャンパスに分室もあります。
相談の割合
昨年の2021年度は、
心理相談78.4%
就学相談7%
進路相談10.3%
経済相談0.8%
法律相談1.8%
その他1.7%
でした。 ほとんどが心理面の相談です。
・抑うつ、元気が出ないこと
・学校生活に関すること
・自分の性格に関すること
・家族に関すること
など人それぞれ、様々な相談がされています。
プライバシーは絶対に守ります!
カウンセラーには職業倫理上の守秘義務が課せられています。そのため、承諾なしにご本人のプライバシーが第三者に伝わることはあり得ません。
たとえば、保護者の方から電話が掛かってきて「うちの息子・娘は相談してますでしょうか?」と訊かれてもカウンセラーは一切答えません。
学生相談室へインタビュー
ここからは、樫木課長と中川さんのお二人にお話を伺います。
――おふたりはどうして臨床心理士になろうとお思いになったのですか。
樫木さん:私は、最初はカウンセリングの道に進もうとは思っていなかったんですよ。大学では教職を取って、それで最初は社会科の高校教員になりました。
中川さん:へえ〜、初めて聞いた。
樫木さん:授業をあれこれ工夫してね、反応があってすごく面白かったんです。若くて体も動くからラグビー部でお手伝いもしていました。
でも、そうしているうちに、学校に馴染めない生徒さんや学校に来られない生徒さんが気になって「一人ひとりの生徒の力になれたらいいな」と思い始めたんです。
人が成長していく教育の場に関わっていたかったこともあって、学校の中で心理支援を行う方向に進むことにしました。そして、大学院で臨床心理を勉強していわゆるスクールカウンセラーになりました。
中川さん:私は、最初公務員になって外務省で18年間働いていました。
海外勤務もあって、ニューヨークで働いているときにアメリカ同時多発テロが起きたんです。当時は私の職場の人はみんな疲れ切っていました。
加えて、日本では女性が働き続けることがまだ難しい時代でもあったため、働く人のメンタルヘルスや成長について気になるようになりました。海外で働き続けるうちに、やはり方向転換をしたいと思い、アメリカの大学院に行って初めて心理学を勉強しました。そして日本に帰ってきて、臨床心理士になったという経緯です。
以前は陸上自衛隊で臨床心理士として仕事をしていて、ここに就職したのはつい最近です(笑)。
――そうなんですか!
樫木さん:そうそう、我々は「私は臨床心理士になる!」みたいな一本道を通ってきたんじゃないんですよね。
――学生相談室に来る学生を見ていて、早稲田ならではの特色を感じることはありますか?
樫木さん:まず、早稲田大学は本当に規模が大きい大学ですよね。だから、多様な学生さんがいらして、いろんなものを抱えていらっしゃる感じです。そしてやはり、早稲田の学生さんは能力が高いです。
何か手がかりが見つかったら、その後自分の力で進んでいかれる感じがします。
中川さん:そうですね、知的で話していて面白いです。「20歳くらいでそんなことまで考えてるのか!」と教えてもらうことが多いと感じています。
「話を聞かせてくれてありがとう」という気持ちになります。
――カウンセリングをするうえで大事にしていることは何ですか?
樫木さん:来てくださった方のお話をきちんと聴くことですね。学生さんに「話してわかってもらえた」という感覚を持ってもらいたいからです。
話の内容だけでなく、その方がどんな気持ちでお話しされているかという部分もこちらが汲み取って、お話を聴くことを一番大事にしています。
中川さん:私は“エンパワメント”が好きなんです。
本来その人が持っている力に注目して、今はたまたま環境の要因やストレスで自身の力を発揮できなくなっている状態だと考え、その力を取り戻すにはどうしたらいいかを学生さんと一緒に考えるのです。
あと、嘘をついたり分かったふりをしないように心掛けています。相手が一生懸命話してくれる中で疑問に思うところや、詳しく聞きたいなと思うところは率直に聞くようにしています。
――おふたりが仕事のやりがいを感じるのはどんなときですか?
樫木さん:私は早稲田の学生相談室に関わるようになってから、もう20年ほどが経ちました。そのなかで、相談してくださった方が自分なりの方向性を見つけて相談室を卒業していくときにやりがいを感じます。
私たちは相談者の方に何かをして差し上げるのではなく、自分なりの結論を出せるようにサポートしています。
ご本人がいろいろと検討して、正解かどうかも分からないけど「とりあえず自分はこれでやってみよう」と思えるようになったときに良かったなと思いますね。
中川さん:あとは、深刻に悩んでらっしゃる状態で来られた方が相談の中で、くすっと笑ったり緊張が緩んだりしたときは「お会いできて良かったな」と思います。
ただ、相談していただいた方が相談室を卒業されるときには「中川さんのおかげで」とは言ってもらいたくないんですよ!
葛藤してカウンセリングの中で自分なりの選択をするということを繰り返すうちに段々カウンセラーはいらなくなります。
みなさんご自身で自分のカウンセリングをできるようになっていくんです。「自分で解決できたから大丈夫」という自信が学生さんに出てきたのを感じられると「やった!」と思いますね。
――「おかげで」と言われてはいけないというのは今日一番の衝撃でした!
――カウンセラーさんはたくさんの人のお悩みを聞かれていますが、ご自身が思い悩むことはありますか?
中川さん:ありますよ。常に心身ともに健康というわけではなくて、ストレスに上手く対処できないときはあります。今日も課長に対してちょっときついことを言ってしまいまして(苦笑)。
樫木さん:私たちもやはり、生身の人間です(笑)。すべてを上手くコントロールできないときもあります。そういうときは中川さんを始め学生相談室のカウンセラーの方に助言を求めるようにしています。
――最後に、学生へメッセージをお願いします。
樫木さん:学生の皆さんへのメッセージはたった1つです。
それは「悩みを1人で抱え込まないで気軽に相談してください」ということです。
悩んでいるときは、段々うつむき加減になって視野が狭くなってしまいますよね。心も同じです。
しかし、顔を上げると周りには友達や家族、先生などがいます。そして、学生相談室もあります!
「こんなことを相談しても良いのだろうか」とか「他の人はもっと重い悩みを抱えているのだろう」などと悩みを他人と比較する必要はないんですよ。
自分が話したいことを話してみる、あなたにとってはそれが今大切なことなのですから。
中川さん:一人ひとりに合わせた対応ができるので、あまり心配しないで相談室に来ていただけたらと思います。上手く話せなくても大丈夫です。それを整理するのが私達の役目ですからね。
――本日は貴重なお話をしていただき、ありがとうございました。
実際に相談を申し込むには
相談には、電話で申し込むことができます。一度で相談が終了する場合もあれば、継続的な相談をする場合や学内・学外の関係箇所を紹介して連携を取る場合もあります。
何か困った際に「どこに相談すれば良いか分からない」と思ったら、まずはお気軽に学生相談室を訪ねてみてください。
現在は感染対策のため、相談は対面が30分、電話の場合は50分を目安に行われます。相談を継続する場合は、学生さんとカウンセラーが話し合って相談間隔を決めています。
さらに、現在は大学と連携しているcotreeというオンラインカウンセリングサービスも利用できます。相談室が空いていない時間にも利用可能なので、外出が難しいが難しい方や夜間に利用したい方にも推奨しています。
10月からは「単回電話アドバイスサービス(なるだけ早く学生相談室の臨床心理士と話したい人へのサービス)」と「法律相談」の申し込みは24時間オンラインで可能となりました。
その他、学生さんのニーズの変化に対応するべく受付方法やサービスの内容は随時アップデートしています。学生相談室のホームページをこまめにチェックしてください。
まとめ
秋学期が始まって1ヵ月経ちました。学生相談室の利用のピークは6月と10月だそうです。「秋学期頑張らないといけないな」と何となくしんどくなっている方は多いのではないでしょうか。
取材に応じてくださったおふたりは柔らかい雰囲気で、真摯に私たち学生に向き合ってくださいました。
何だかモヤモヤすることがあったら、1人で抱え込まず学生相談室を訪ねてみてくださいね。
早稲田大学保健センター学生相談担当課長 兼 学生部調査役(学生相談担当)。
公認心理師、臨床心理士、特別支援教育士スーパーバイザー。
学部時代に心理学を学ぶ。教職(高校・社会)に就くなかで、学校になじめない生徒や不登校生徒に対する支援について関心が高まり、心理臨床の道へ(社会人学生として臨床心理学の大学院修了)。
学生相談や中高スクールカウンセラーなど、主に教育領域の臨床に携わり今年で27年。
学生相談室を利用する学生のなかで、発達障害のある、あるいはその特性を自覚している学生を対象としたグループカウンセリング(WADS)を2009年から実施。
早稲田大学保健センター学生相談室 専任教員 スチューデントダイバーシティーセンター(GSセンター)兼務公認心理師、臨床心理士、フェミストカウンセラー、産業カウンセラー
高校卒業後、外務省で働きながら臨床心理士の資格を取得。その後はフリーランスとして東京を拠点に私設相談室や男女共同参画センター、婦人保護施設などで15年間勤務し、防衛省陸上自衛隊の弘前駐屯地でも2年間勤務。
2022年4月から早稲田大学学生相談室の専任職員(医療職)となる。