1967年創立 早稲田で一番アツい出版サークル マスコミ研究会! 企画・取材・デザイン・文芸、好きな分科会で自由に活動しよう!

装幀家の岡本歌織さんにインタビュー ~本を彩るお仕事~

森見先生の原稿が大難航……!?

――ここまでのデザインを考える段階で森見先生の原稿は完成していたのですか。
 いただいていたのは第4章までで、未完成の状態でした。カバーデザインを話し合っていた2022年の終わりに、森見さんの執筆がかなり難航していたみたいで。もしかしたら出版しないということもあるかも……と心配していたところ、急に去年の夏くらいに「原稿が完成しました」という連絡があったんです。「刊行は来年の1月にしたいです」って。できれば満を持してゆっくり準備して進めたいところでしたが、版元の事情もあると思うので、急ピッチで進めました。
 改稿を経て登場人物の性格なども変わっていたので、改めてキャラクターデザインを森さんに描き直してもらったんです。第一弾のデザインから3年くらい経っていたので森さんの絵のタッチも変わっていて、以前の丸っぽい顔からシュッとした顔になって、印象がだいぶ変わりました。
 キャラクターデザインが固まったらいよいよカバーデザイン、ということで絵コンテをしっかり描き直しました。物語の中ではヴィクトリア朝京都とロンドンが表裏一体なので、雲が重なっている中に京都やロンドンの街並みがあって、下の方は京都の街が崩れていく、というイメージを絵コンテでお伝えして、それをもとに森さんにデザインを描いてもらいました。

最終的なキャラクターデザイン
絵コンテ
完成間近のカバーイラスト


「装幀って選ぶことが多くて大変だなといつも思いますね」

――文字のデザインはイラストデザインの後に考えたのですか。
 そうですね。明朝体をぐにょんとさせてニュアンスを入れることで緩やかさを出しました。箔にも種類が多くて、金色の中でも黄色っぽい金とか赤っぽい金とかがあって。今回はヴィクトリア朝京都のイメージに合いそうな、赤みのあるクラシカルなゴールドの箔を選びました。

――こんなに種類があるんですね。
 優柔不断なので毎回めちゃめちゃ悩みます(笑)。花布やスピンもたくさん種類があります。今回は竹林やカバーデザインの背景の色と合わせて緑色のスピンを選びました。装幀って選ぶことが多くて大変だなといつも思いますね(笑)。

カバーに載せるタイトルの箔の見本
「花布(はなぎれ)」(本の背の内側の上下に接着する布)と「スピン」(布製のしおり)の見本

 紙も装幀家が選ぶんですが、今回は作品のページ数が多いので、分厚い本に見えないように薄めの紙にしました。カバー裏の表紙には「レザック16」というエンボスの入った革っぽい紙を使って、物語に出てくるホームズの古い革製のノートをイメージしてみました。カバーデザインにも和洋折衷の雰囲気があると思うんですが、ここでも重厚な本のイメージと文様っぽいデザインを組み合わせました。

カバー裏の表紙のデザイン

 ホームズといえばベイカー街221Bということで、扉絵は物語が始まるアパートのドアみたいなデザインにして、登場人物のキャラクターデザインも入れてもらいました。

扉絵