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元ヤングケアラーが介護経験を語る 「生きることを諦めないで」

 「ヤングケアラー」を知っていますか? 厚生労働省の定義でヤングケアラーとは、一般に、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子どものことです。この定義は法令化されておらず、国によっても異なります。その責任や負担の重さにより、子どもが子どもらしく過ごせないのは大きな問題です。

 今回は、元ヤングケアラーで、一般社団法人ヤングケアラー協会のたかさん髙尾江里花さんにお話を伺いました。この団体は「すべてのヤングケアラーが自分らしく生きられる世界」を目指して活動しています。

 自分がヤングケアラーだと気付いたとき、周りの人がヤングケアラーかもしれないと思ったとき、大学生にできることは何でしょうか?

 

ケア年表

これは、たかさんと髙尾さんの介護経験を簡単にまとめたものです。
これを基に、詳しく当時の心境をお聞きします。

たかさん

時期 状況 当時の生活
大学生 祖母の認知症が発覚する。 祖母が何をするか分からないので、話し相手をしたり見守りをしたりする必要がある。
自分の時間を確保できなくなる。
社会人1~3年目 全国転勤のある会社のため、実家には週末に帰る。 仕事中は介護を忘れられたが、祖母の状況が悪化すると介護のストレスや介護離職について考える。
社会人4〜6年目 実家に戻り、介護をしながら働く。祖母が施設に入所したので介護が終わる。 祖母の徘徊や暴言によりストレスがたまる。働く時間に制限がかかり、上司や同僚の理解が得られず、会社でも家でも気が休まらない。

 

髙尾江里花さん

時期 状況 当時の生活
中学生 母が脳出血で倒れ、その後遺症で右半身不随と失語症を患う。父も統合失調症で入院する。 約半年間、3歳下の妹と二人暮らしをする。母が退院した後は、在宅介護をする。
高校生 母の介護を行う。 公立高校入学後、すぐにアルバイトを始める。介護との両立が難しいと思い、ダンス部への入部を諦める。(その後半年遅れで入部ができた)
専門学生 母が少し回復して、介護がある程度落ち着く。 車椅子に乗った母と 2人で出かけることも可能になる。
社会人 母が癌を患い、その診断を受けてから9ヶ月で亡くなる。 母の死から1年、自分がヤングケアラーだったことを初めて理解する。

 

たかさんの経験

Q.介護をするうえで特に辛かったことは何ですか?

 介護をするとなったときに、祖母の認知症や介護制度について知らないことだらけだったので、これからどうなるのか、どうすればいいのかが分からず大変でした。また、20代で介護をしていることへの理解が大学の先生や友達から得られなかったですね。「それなら大学来れるじゃん」、「そんなに辛そうじゃないじゃん」なんて言われるのが精神的なストレスとなり、最終的には相談もしなくなりました。

 大学3・4年生になるとこれからどうなるんだろうと不安でした。本当に自分は就職できるんだろうか、就職してしまって大丈夫なのか、実家から会社に通えるんだろうかとか色んなことが頭をよぎりました。

 社会人になって、介護離職をするかどうかの選択に迫られたときも大きな葛藤がありました。自分の人生を諦めて家族を取るか、家族を見捨てて自分のキャリアを取るかという選択を26歳でしなくてはいけなかったのが辛かったですね。結局、私は離職しなかったのですが、もし離職していたら、その後に就ける仕事はほぼなかったと思うので「無敵の人」になっていたかもしれません。

 

Q.介護をすることに疑問は感じなかったのでしょうか?

 家族だから当たり前だと思っていたし、親戚から「介護してえらいね」って言われるとこれが普通なのかなと感じていました。

 

髙尾さんの経験

Q.介護をするうえで特に辛かったことは何ですか?

 大人と子どもの関係が逆転した日常が普通で、毎日が戦争のようでした。母親が作業所に行けるように朝起こしてご飯を食べさせながら、自分も授業に間に合うように準備をしなきゃいけないのは本当に大変でした。

 母親の病気は進行性のものではなく、一生付き合っていくものでした。母親は40歳くらいで倒れたので仮に平均寿命の80歳まで生きるなら、40年間も私はケアしなきゃいけないなって考えていたんです。そう計算すると、仕事や結婚が問題なくできるのか、実家を出ていいのかなど、様々なことが不安でしたね。

 

Q.他の家族と比べてしまうことはなかったのですか?

 現代だとSNSが盛んで、お母さんとランチに行ったとか、ショッピングをしたとか、友人の投稿が目立ちますよね。そういう他愛のないものを見るとやっぱり羨ましいなって思っていました。でも、その気持ちはぐっと心に留めていましたね。

 

車の免許を取得して、車椅子に乗る母と 2人で出かけた際の写真。かけがえのない親子の時間だったと振り返る。

 

ここからはお二人にお話を伺います。

Q.多くのヤングケアラーの方と話すなかで、共通しているなと思うことはありますか?

たかさん:「ヤングケアラーあるある」として、よく聞く話がいくつかあります。まず、人に頼るのがどんどん下手になって、自分一人で生きるスキルが向上していくこと。自分で何でもできるから人に頼らないというスパイラルに陥ります。

 あと、人の顔色を伺いながら生活している人が多いですね。ケアをしていると言葉を介さないで察しないといけないことがすごく多くて、人をよく観察するようになるんですよね。ある種のコミュニケーション能力が高い人が結構いるなと思います。

髙尾さん:介護している環境を当たり前だと思っているお子さんが多いです。「色々な形が存在する家族のうちの一つだからしょうがないか」と私も思っていました。当たり前に順応してしまうところがありましたね。

 それだけでなく、プラスなこととして隙間時間の使い方が上手いことも「あるある」ですね。母親の体調が大丈夫かどうか定期的に確認しないといけなかったので、そんな環境での勉強は大変でした。でも、当時に工夫していた隙間時間の使い方は今でも身に付いていて、通勤電車の時間を有効活用できています。

たかさん:ヤングケアラーって言葉は一つですが、色々なケースがあるので杓子定規に当てはめたら絶対うまく対応できません。我々のような祖母や親の介護の場合と違って、DVやネグレクト、貧困、きょうだいの世話などで大変な状況にある人もいます。アプローチの仕方を混同しないように気をつけないといけません。

 

Q.介護の経験をすべてネガティブに捉えているわけではないのでしょうか?

髙尾さん:そうですね。限られた環境の中で何かいいことを見つけて生きていこうと思って、当たり前のことに感動したり感謝したりできるようになりました。たとえば、コンビニにいつもこんなに物が揃っているのってすごいなと感動しちゃいます。仕入れ先があって夜中に運んでくれる人がいて店員さんがいて。ありがたいなあと思います。

たかさん:「私には介護の経験しかないから何もできないんです」と言う人も結構います。でも、強みがあるんだよと伝えたいです。先ほどもお話ししたように、コミュニケーション能力が高くて人に気を遣えてマルチタスクが得意な人がヤングケアラーには多いです。これって、めちゃくちゃ社会人に求められる能力なんですよ。

 

Q.今、ご家族に対して思うことを教えてください。

たかさん:父には感謝しています。介護はしなかったけどもお金は稼いできてくれたので、父は父の役割を果たしてくれたと思います。

 祖母には「自分が壊れる前に壊れてくれてありがとう」と思っています。大学生になるまで一緒に暮らしたことがなく、他人を介護している感じが強かったんです。介護が終わったのは2016年で、祖母が転倒のため骨折をして認知症も悪化していたので、施設に入所しました。その時期はすごく介護が大変で追い詰められていたから、10年間の介護を祖母がもういいよ、って言ってくれたのかなと思います。

髙尾さん:母に「ごめんなさい」の気持ちでずっと生きています。母は「こここここ」とは言うんですけどね、後遺症で言葉が使えなくて。母の伝えたいことを理解しきれず迷宮入りすることが多かったんです。だから、何百回何千回と母の気持ちを分かってあげられなかったなと思います。

 それに、母は癌で亡くなって、私はその病気に気付いていなかったので「これは完全に私のせいだ」と。思わなくてもいいんですけど、でも私は最期までこう思って生きますね。だからこそ、これからの人生は後悔しないようにしようと思っています。

 

取材の様子。たかさんはオンラインで応じてくださった。

 

Q.ヤングケアラーに出会ったら、どのように接したらよいのでしょうか?

たかさん:対等の友達として話を聴けばいいだけだと思っています。介護をしていることを過度に捉えられない方が僕は嬉しいですね。「次、いつ飲みに行く?」などと軽い感じで接してもらいたいです。

髙尾さん「頑張ってね」ではなく「頑張ってるね」と言ってもらえたときには心が軽くなりますね。たった一文字でもかなり違います。

 

Q.ヤングケアラー問題に対し、大学生ができることは何でしょうか?

たかさん:そういう人たちがいると気付けるのが大事です。そして、話を聴いて信頼関係を築く。何かあったときに相談できる存在になることも重要だと思います。僕は、祖母の心配はされても自分の心配は一切されないと思っていたので。「おばあちゃん大丈夫?」とよく心配されたのですが、「たかくん大丈夫?」とは聞いてもらえませんでしたね。

加えて、本当に困窮している事例は、行政の相談窓口に連絡する必要があります。

 

Q.今、家族のケアで苦労している若者に伝えたいことは何ですか?

髙尾さん:「相談する=恥ずかしい」と昔は私も思っていましたが絶対にそんなことは無いです。相談することで人生の選択肢が広がるかもしれません。ヤングケアラーは「かわいそう」だと思っている人はたくさんいると思いますが、そんなことはないし、自信を持ってほしいなと思います。

たかさん:僕は「声をあげていい」といったポスターがすごく嫌いなんですよ。ケアラー本人が声をあげることはとても難しいので、綺麗ごとのように感じます。自分が今ケアをしている人たちに1つだけ言えることがあるとすれば、「生きることを諦めないでほしい」ということ、それだけです。

 

相談窓口

・一般社団法人ヤングケアラー協会

一般社団法人ヤングケアラー協会 | ヤングケアラーとは| ヤングケアラー支援団体 (youngcarerjapan.com)

・厚生労働省のWEBページ

子どもが子どもでいられる街に。~ヤングケアラーを支える社会を目指して~ 【厚生労働省】 (mhlw.go.jp)

・24時間子どもSOSダイヤル(文部科学省)

電話番号:0120‐0‐78310
受付時間:24時間受付(年中無休)

他にも各自治体で支援が行われています。お住まいの自治体のHPを調べてみてください。

 

 

こちらも併せてお読みください。

「女による女のためのR-18文学賞」上村裕香さん ヤングケアラーという枠を越えて「人間を書きたい」-早稲田大学マスコミ研究会 (waseda-massken.com)