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Interview わたカフェ「女の子たちに安心安全な居場所を」

わたカフェのアイキャッチ画像

女の子が安心して過ごせるよう、〝わた〟のように包み込んでくれる「わたカフェ」。そこには、自分の好きなようにいられる「わたしのための居場所」があります。今回は、臨床心理士でスタッフの〝りえさん〟にお話を伺いました。

わたカフェとは

わたカフェのロゴ

・15歳から24歳の女の子のための安心・安全な居場所です。

・ひとりでのんびりスマホを見る、本を読む、勉強に集中する、友だちとおしゃべりするなど自由に過ごすことができます

・飲み物、おやつ、Wi-Fi ・電源、生理用品などを無料で提供しています

・身体のこと、家族・友だち・恋人とのこと、勉強や進路、気になることをソーシャルワーカー、心理士、助産師などの専門職スタッフに無料で相談できます。

 

インタビュー:わたカフェスタッフ りえさん

わたカフェのりえさん
臨床心理士。わたカフェやチャット相談で女の子たちの相談に乗っている。

 

わたカフェ開設の経緯

──わたカフェはどのような経緯で開設されたのでしょうか。

わたカフェは、国際NGOのプラン・インターナショナル(以下:プラン)のプロジェクトの一環なんです。プランが東日本大震災の際に日本国内初の支援として、被災した子どもたちの「心のケア」をサポートしたことが、わたカフェ開設の元々のきっかけでした。

プラン・インターナショナル・ジャパンの記事はこちら→「東日本大震災での活動」

スタッフは心理士や助産師、ソーシャルワーカーというように、それぞれ違う専門資格を持っていて、みんなで相談しながら女の子のサポートをしています。
国際NGOとしての知見を生かして、助産師を通じて包括的性教育※に関する講座を開くこともあります。
スタッフのバックグラウンドも様々で、児童養護施設や更生保護施設、学校の保健室・相談室などで働いていた人がいます。
そこで女性特有の悩みを抱える女の子たちと関わる中で、もっと彼女たちに手の届くことをしたいと思って集まってきた人が多いですね。

 

──りえさんご自身はどうして女性支援に携わるようになったのですか

大学では社会福祉を専攻していたんです。大学時代に沖縄のハンセン病療養所を訪問して、差別されている人のために働きたいと思って。その後、精神科病院や女子大の学生相談室に勤務する中で、悩みを抱える女の子の助けになりたいと思うようになって、わたカフェのスタッフに入りました。
女性支援にたどり着くまでに紆余曲折ありましたね。

 

 

具体的な支援内容

──どんな女の子たちがわたカフェを利用していますか。

15歳から24歳の、高校生や大学生、社会人です。
携帯を見たり、ゲームをしたり、勉強をしたり、もちろん相談をしたり、いろいろな利用の仕方があります。

 

──女の子たちからどのような悩みを相談されますか。

内容は本当にさまざまです。友人関係、恋人や家族のこと、仕事のこと、将来の夢、自分自身のこと……。
あとは帰る家がないという相談も時々あります。

特に10代の頃って色々悩むじゃないですか。自分は何がしたいのか、社会で生きていくとは何か。
そういうことを健全に選べればいいけれど、たとえば家庭の問題があって、うまく社会を信じられない子もいて。
「自分なんて役に立たない人間だ」と思っている子は、生き生きと自分の選択をするのがすごく難しいんです。

 

──日本の現状として、何が女の子たちを苦しめているのでしょうか。

理由はたくさんあると思いますが、その1つとして、児童福祉法の対象って18歳までなんですね。18歳になったことで支援の対象から外されてしまって、困っている子がたくさんいます。

 

──そうなんですね。

あとはお金や居場所がなくなった女の子は、パパ活や風俗に流れやすいんです。奨学金返済のために働かなければいけない学生も増えていて。平日は授業に出ないと単位が取れないから、土日で効率よく働くために風俗とかキャバクラに行って、性被害に巻き込まれることが多いんです。
そうなったときに、自分が悪いって思う子が多いんですよ。自分がちゃんとやらなかったから、自分がみんなみたいにうまく生きなかったからなんじゃないかって。

そう思ったときに相談する場所はなかなかないから、そういう子たちの支援ができたらと思っています。

 

──わたカフェに来る女の子たちをどのようにサポートしているのでしょうか。

大切なのは信頼関係を築くこと。
「ここなら何を話してもいいんだ」、「相談できる場所なんだ」と思ってもらうことが本当に大切です。
私たちは危害を加える人ではなくて、あなたの支援をすることができる人なのだと知ってもらう。

それに、虐待など社会的に辛いことがあった子は、大人を信用できなくて「どうせ言っても無駄だ」、「『あなたが悪い』って怒られる」と思ってることが多いんです。
だから、まずは居場所を作ることで、ここは安心安全で、否定されることがない場所だということを感じてほしいです。

 

──相談しようと思えるまで時間がかかるんですね。

はい。何度もここを訪れて、ゆっくり過ごす中で、スタッフが歩いてるので「この人だったら話ができるかな」と思ってくれるようになる。それからやっと相談してくれる人もいます。それでもまだ全部話してくれるわけじゃないので、その子を尊重して、関係性を作っていくことが大切ですね。
ずっと怒られてきているような子たちにとっては「自分も悩みを持っていいし、いろいろな考え方があるんだ」と気付けること自体が凄いことなんです。

相談室
相談室。プライバシーが守られているので、安心して話せる。

 

 

──相談を受けたあとは、どのように支援していくのですか。

その子の「こういう風になりたい」っていう考えや選択肢を応援するのが私たちの仕事です。女の子たちが自主的に自分の人生を選べるようにすることが私たちの目標なので。伴走支援ですね。
特に若い年代だと、将来の夢が漠然としているのが普通だから。話を一生懸命聞いていって「アルバイトから始めてみよう」とか「こういうサービス機関があるから一緒に行ってみよう」とか、段々と進んでいけるように一緒に支えています。

 

──女の子たちと接する際にどのようなことに気を付けていますか。

その子の意見を尊重すること。怒ることはないですね。
どんな子でもどこかで我慢して生きてきているので、その子が生きてきたことを大切にして、温かく見守ります。「よく生きてきた」っていう感じで。

 

──わたカフェでどのように過ごす方が多いですか。

1人で過ごしてる子の方が多いですね。勉強したり漫画読んだり。誰にも話しかけられないで1人で安心してぐだぐだできる場所ってあんまりないと思うんですよね。女の子がずっと机やソファで寝ていられる場所ってないじゃないですか。
(街中だと)やっぱり怖いですよね。そういうことができる居場所って思ってくれる子は多いと思います。

本棚
本や漫画を読みながら、ソファやテーブル席に座って一人でゆっくり過ごせる。
関係機関のパンフレットや性教育の読み物も。

 

 

冷蔵庫
冷蔵庫から自由に飲み物や食べ物を取れる。

 

生理用品
トイレには生理用品とコンドーム。スタッフに言わずに取れる。

 

──わたカフェを利用することで良い変化があった子たちはいますか。

結構います。良くなると来なくなっちゃうからわかんないんだけど(笑)。
たとえば、家がなかった人に相談できる場所を教えてあげて、家を見つけられた人もいるし、一緒に福祉事務所に行って生活保護を受けられた人もいるし。若者向けのサポートセンターを紹介して、仕事が見つかった人もいますね。
あとは、大学院に行きたいという目標がある人をカウンセリングで支えつつ、ここを勉強場所にしてもらって、無事に大学院に入れた、とか。わたカフェの使い方はいろいろあります。

 

──わたカフェでの印象的な思い出はありますか。

元旦におせちを出したら、おせちを見たことがなかったとか、おせちに意味が込められていることを知らなかったという子がいて。私たちにとっては普通のものでも、見たり食べたりする機会に恵まれない子もいるんだと改めて思いましたね。それで、わたカフェでは季節感を大切にしているんです。ハロウィンやクリスマス、七夕の笹の葉とか。

あとは、ここに通って1年くらい経ってから「実は相談がしたかった」と言う子がいてびっくりしますね。相談するというのはこれほどハードルが高いんだなと。

わたカフェに来てくれた子には最初にチェックシートを渡して、どんな風に過ごしたいかを教えてもらっているんです。
「相談したい」にチェックしてくれた子には私たちが声をかけて、個室で話を聞きます。心の相談だったら心理士が、体の相談だったら助産師が、生活の相談だったらソーシャルワーカーが対応します。

相談するためにはチェックをつけるだけなんだけど、これすら難しい子が結構いるんだな、もっと声を掛けてあげたら良かったかなって。

 

チェックシート
来室者に渡すチェックシート。

 

 

コロナ禍と女性支援

──コロナ禍と女性支援についてお聞きします。コロナ禍における若い女性たちの悩みにはどのようなものがありますか。

わたカフェの利用者とは関係がないですが、水商売しか仕事が無くなってしまった女性が一定数いると思います。時短営業などで飲食店やカラオケで働けなくなってしまった女性が、最後に行きつく場所が水商売なんです。他にも、若い女性の自殺率がガンと跳ね上がったということもあります。というのも、外に出て人と繋がることができなくなり、かなり鬱屈したというか、苦しい状況だったんじゃないかな。

 

──コロナ禍で失業率が上がったり孤独感が助長されたりしたんですね。

そうですね。家庭に居場所が無いということがあって。家庭って閉鎖された世界なので、外からだと分からない。
性暴力や虐待、DVなどの被害を受ける女性が増えたということは聞きますね。嫌とはなかなか言えなかった人たちにしわ寄せがいったんじゃないかなと思う。

 

──ステイホームで、家庭の問題が増えてしまったんですね。

女の子たちはすごく苦しかったと思います。例えば夫婦喧嘩が絶えない家庭だと、喧嘩がもっとひどくなりますよね。本当にコロナのときは大変だったと思います。

 

──身の回りに「学校に行きづらい」といった悩みを抱えている友達がいた場合、どのように接すれば良いのでしょうか。

難しいけれど、友達としてできることだったら「学校に来てほしいな」とか「会いたいな」みたいに、あなたが必要だっていうことをいろんな形で言ってあげることがまず1つ。

あとは悩みのレベルによっては学生相談室の利用ですよね。学生相談室を紹介してあげるのもいいと思うし、自分が代わりに学生相談室に行ってみるのも1つの方法ですね。やっぱり、相談室があるのは分かっていても行けない子の方が多いと思います。だからこそ「今日こんな風に相談してきたんだけど、親切に話聞いてくれたよ」みたいな口コミってすごく良いんですよね。大人に繋ぐっていうのは大切ですね。

 

早稲田大学学生相談室についての記事はこちら→「悩みを1人で抱え込まないで」早稲田大学学生相談室へインタビュー

 

──活動を続けるうえでのやりがいはありますか。

「本当にここにいられて良かった」とか「話を聞いてもらって今までとは違う意見を持つことができました」とか、そういうポジティブな感想を言ってもらえたときにやりがいを感じますね。今後も皆さんが自分の道を決めて卒業していってくれたら嬉しいなと思います。

 

──若い女性へのメッセージをお願いします。

困難な状況にあるとき、自分を責めていると相談のハードルが上がってしまうと思います。
でも、我慢して生きていること自体を誰かに相談してみるというのは、1つの解決方法になると思います。
チャットで相談してもらっても、わたカフェに来てもらってもいいので、ぜひ話してほしいです。

 

──今後の展望を教えてください。

今は週4回しかわたカフェを開けられていなくて、人数的にも1度に受け入れられるのは8人が上限なので、規模の拡大を考えたいです。また、近くの「みらい館大明ブックカフェ」とコラボして、「出張わたカフェ」というのをやっています。まだ試みの段階ではあるのですが、そこは39歳までだったら男性でも利用・相談できるんです。私たちは利用者を15歳から24歳までに限定しているので、今後は違う年齢層にもアプローチできる支援をしていきたいなと思ってます。

 

みらい館大明ブックカフェのホームページはこちら→みらい館大明ブックカフェ

 

※包括的性教育とは、性を人権の視点で捉え、心や体、社会など幅広い側面から体系的に学ぶ性教育を指す。あらゆる性別が平等であり、多様な性のあり方があることを前提に、性に関することを生殖だけでなく、コミュニケーションや人間関係も含めて学ぶ。
参照:「包括的性教育」とは?|ライフデザインONLINE (pilcon.org)

 

わたカフェの詳細情報

ホームページから来室予約とチャット相談が可能。
開室時間→月・火・木・金 13:00~19:00
チャット相談→月~木 14:00~18:00
住所→〒 170-0013
東京都豊島区東池袋 2-50-1 加藤第7ビル2F
池袋サンシャインシティから徒歩約2分

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