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ジャーナリスト 田原総一朗 ~追い求める久遠の理想~

田原総一朗 早稲田

 

電通というタブーに切り込む

──電通からの圧力で仕事を辞めざるを得なかったとき、どういったお気持ちでしたか。

ありがたいことに、この件が話題になってあっちこっちから取材が来たんだよ。朝日新聞、毎日新聞、TBS。一流のマスメディアがガンガン取材に来るようになった。だからクビになったけど逆に生活は非常に楽になってね。結果としては良かったのかもしれない(笑)。それと同時に、この件がきっかけでもっと電通について記事を書かなくちゃならないとも思った。
けれども当時、電通に関する話題はタブーだったわけ。だからどこの大手出版社にも、電通について書きたいって言ったら断られた。ようやく連載できることになったのは週刊朝日だったね。だけども、原稿を書いたら電通からクレームが来て「書き直せ」って。
でもね、その時僕の親しかった人が、当時電通の広報担当専務であった木暮さんとたまたま知り合いでね。僕に紹介してくれたから、直接会って話をしたんだ。「僕は電通を攻撃する気はない。クレームで書き直せというのはどういうことだ。日本には言論の自由があるのではないのか、電通は日本を中国やソ連みたいな国にしたいのか!」って言ったの。
木暮さんは非常に心の広い方でね、それを聞いて「よく分かった、自由に書いてくれ」って言ってくれた。そこから僕は自由に記事を書くことができるようになったんだ。その結果、『電通』って本ができてベストセラーにもなった。もし木暮さんにダメだって言われていたらできなかった。だから今でも本当に感謝しているよ。

 

迷うからこそ人間だ

──今までジャーナリストとして様々な方と関わってきた観点から、人間の強みとは何であると考えていますか。

やっぱり人間の一番の特徴は迷うことなんだよ。人工知能なんかは迷わないからね。でも人間は迷うから成功する。迷って間違えて、でもその間違いを指摘して改善できる。だから、迷うことは人間にとっては一番大事なこと。
逆に迷わないと失敗する。間違わないと改善することもできないから。だから僕は、絶対に正しいとか、絶対に間違っているとかいうことはあまり信用しない。
人間は正しいのか間違っているのか、迷い続けることが大事だから。

──お仕事の中で一番辛かったのはいつでしょうか。

やっぱり、さっき話した電通批判の件でテレビ東京をクビになったときかな。あとは、75歳の時に20年続いた『サンデープロジェクト』という番組が潰れたこと。その時はとてもショックだった。
だからね、仕事ができなくなることが一番辛いのかな。

 

笑う 田原

 

仕事は全部命がけ

 

──同年代の方々が亡くなっていく中で、田原さん自身は死についてどう考えていらっしゃいますか。

僕も90だから、いつ死んでもおかしくない。でも、怖くはないよ。
僕も70代くらいまでは死ぬのが怖かった。死にたくなかった。だけどね、80になったときからはいつ死んでもいいと思えるようになった。
いつ死んでもいいっていうことは、仕事は全部命がけでやっているということだから。

いろんなところで「『朝生(朝まで生テレビ!)』で死にたい」って言っているけれども、やっぱり仕事をしながら死ぬのが理想だね。プロデューサーは猛反対してるけど(笑)。
でもね、僕は仕事ができなくなったら多分、死ぬだろうねだって仕事が一番の楽しみなんだから、趣味が何もない。趣味なんかやってる余裕が全くない。人生かけて、仕事をしているから

──やはり日本を良くしたいという一心で仕事をなさっているのですか。

そう。仕事に関して、僕には三つの信念がある。
まず第一に、言論の自由を守るそこにタブーはないんだよ。誰でも言いたいことを自由に言える。
第二に、この国を「戦争をさせない国」でいつづけさせる
第三に、日本の野党をもっと強くする
与党で政治とカネの問題が起こるのは、野党が弱いからっていうことも一因だと僕は思っているからね。
この三つの信念があるから、僕は仕事を続けることができている。

 

トランプに取材してみたい

──何かこれからやってみたいことはありますか。

今取材してみたいのはトランプだね。
アメリカの大統領経験者の中で、僕はブッシュクリントンに取材したことがある。彼らをはじめとした今までのアメリカ大統領は、アメリカは世界の平和を守る「世界の警察」だってことを言っていた。アメリカによる平和、パクス・アメリカーナってね。

でもトランプは彼らとは全く別のことを言っているわけ。「アメリカ第一主義」と。アメリカが良くなることが一番いいんだと。それが全米で支持されている。これは当然の流れなのかもしれない。アメリカは第二次世界大戦後、莫大な資金を投じてヨーロッパを復活させた。アジア、日本に対しても同じことをした。だけれども、世界のインテリと呼ばれる人達にとっては、アメリカを非難することが良識だと思われてきた。
それは今でも本当にそうだと思う。アメリカがいつも正しいわけじゃないから。でも彼らからすれば、世界のためにこんなに犠牲になっているのに、なんで世界から非難されなきゃいけないんだと内心怒っていると思うんだ。
そこにアメリカをもっと良くしよう、アメリカが良ければいいんだ、とトランプがガツンと言った。だからトランプは支持を集めることができた。そう僕は考えている。

 

習近平に会いに行く

──トランプ再任後の国際情勢はどうなるとお考えでしょうか。

僕が一番心配しているのは中国問題についてだね。
今、アメリカでも日本でも、中国が台湾に武力行使するんじゃないかと懸念しているよね。アメリカは一応、台湾のために戦うと言っている。
でもその前にアメリカは、当然日本に対して、代わりに戦えと言ってくるだろう。もう彼らは世界の警察じゃないから。そうなったら日本が戦場になってしまう。中国のミサイルがどんどん撃ち込まれてしまう。それだけは何としても避けなければならない。

だからね、僕は習近平に会いに行こうと思っている。僕が思うに、日本の政治家で一番習近平に信頼されているのは二階俊博。だからできるだけ早く、二階さんと2人で習近平に会いに行こうと思う。台湾に武力侵攻するなって直接説得してみようと思っているよ。二階さんもOKくれたし、石破さんも許可してくれると思う。だから習近平との会談は、できるだけ早期に実現させたいね

 

安定を捨て タブーに切り込め!

──我々のような学生メディアが果たせる役割とは何でしょうか。

商業誌が怖くて言えないことにちゃんと踏み込む。「タブーに切り込む」ことが大事だと思うよ。
僕はこれまでいっぱいタブーに切り込んできた。電通の話だってそうだし、天皇制とか原子力の話だってそうだった。それは全部この国を良くするためにやってきたことなんだ。

やっぱりね、若い人は割合、安定を求めすぎている。安定を求めると、タブーに切り込むことができなくなるんだ。
でもね、安定なんてインチキなんだから。本当の安定なんていうものはありえない。
実際、今の日本は大変な状況だよね。70〜80年代は、日本の経済は世界一って言われていたけれど、一気にダメになっちゃって、そこから立ち上がれない。安定なんか全然していないんだ。
だから安定を求めるよりも、もっとタブーに切り込む。冒険する。もっと日本を良くしていくために、恐れずどんどんタブーに切り込んでいく。言っちゃいけないものは日本にいっぱいある。そこに踏み込んでいってほしい。そして、この国をもっと良くしていってほしい。
僕は若い人たちに対して、そういうことを期待しているよ。

──ありがとうございました。

 

田原 ワセキチ

 

 


プロフィール
田原総一朗 ジャーナリスト
1934年生まれ 滋賀県出身
1953年 早稲田大学第二文学部に入学 のちに中退
1956年 早稲田大学第一文学部に再入学
1960年      第一文学部を卒業
1964年 東京12チャンネル(現テレビ東京)に入社
1977年に退社 以後フリージャーナリストに

主な出演番組に『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』『激論!クロスファイア』など
主な著作に『原子力戦争』『電通』など 昨年4月に『全身ジャーナリスト』を刊行
2002年から早稲田大学大隈塾ネクストリーダープログラム(大隈塾)塾頭を務めた

(文責 三輪浩太郎)