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Interview 国際協力NGO風の会 ~子どもたちの追い風に~

カンボジアやラオスの教育支援などを行う国際協力NGO団体「風の会」。早稲田大学の学生を中心とするメンバーで構成され、教育を受けることができない子どもたちの支援に携わっている。今回は、早大生で、風の会 総合教育事業部に所属する高畑有佑さんにお話を伺った。


【風の会とは?】

―まず、「風の会」の概要についてお伺いします。

カンボジアとラオスへの教育支援を軸に活動し、「全ての子どもたちが未来への希望を持てる社会を目指して」というビジョンを掲げています。

来年で25周年を迎える、結構長く続いている団体です。他の学生主体の国際協力団体と違うのは、サークルではなく、NGO法人として活動しているというところでしょうか。

年に2回のカンボジアとラオスへの渡航と、週1回のミーティングを基本の活動としています。

 

―創設の経緯を教えてください。

設立者であり、現会長である宮瀬英治さんが30年前に世界中を旅していたとき、最も貧しいと感じた国がカンボジアだったことがきっかけだったそうです。ボランティアを立ち上げて支援しようと、風の会が設立されました。

はじめは任意団体だったんですが、2008年からNGO法人化して本格的に活動を始めました。

 

―団体名の由来が気になります。

「発展途上国の子どもたちの追い風になりたい」という思いから、「風の会」という名前にしたそうです。

 

―どのような学生さんが活動に参加されていますか。

純粋に国際協力がしたい、ボランティアがしたいという人は実は少数派で、単純にプロジェクトを遂行するプロセスやチームマネジメントが好きな人、新しい事業を作ることやビジネスチックなことに興味がある人など、いろんな人がいますね。

僕も入学当初はビジネス寄りに興味があって、ボランティアには全く興味がなかったんですが、友達の誘いで1年生の秋に入会してみたら、国際協力のやりがいや面白さを他のメンバーから気付かされました。いろんな人がお互いに影響しあえる環境がありますね。

 

【活動実績】

―ラオスやカンボジアでの活動実績について教えてください。

カンボジアでは、ハード面の支援で言うと、小学校の建設を2件、中学校の建設を1件、行いました。

ロムチェック小学校とコットム小学校、あとトゥルコキ中学校ですね。

ラオスの支援は最近はじめたんですが、小学校の改築を行っています。

ソフト面では、学校を建設したあとの事後支援をしています。学校側が、僕らの支援なしでも自立して運営していけるように、学校の衛生環境の改善やゴミ問題、先生の教育などをずっと続けています。たとえば、手洗い場やトイレを建設して衛生環境を整えることで、教育環境の整備を目指しています。

 

カンボジア バッタンバン州 ロムチェック小学校にて (2023年春に撮影, 風の会提供)

 

 ―どういうプロセスを経て学校を建設するんでしょうか?

プロセスは様々なんですが、たとえば、今回幼稚園を建てようとしているロムチェック村に建てられた小学校に関しては、大和ハウスさん協力のもと建設されています。われわれ学生のNGOは本当に資金力に乏しいので、学校建設をしようと思うと、まず資金調達が最も大きな課題になってきます。そこをクリアするためには、①企業からの協賛を得る、②クラウドファンディングで資金を集める、③自分たちの収益事業の利益から学校建設費用にまわす、っていうだいたいこの3択です。資金調達をクリアして学校を作るだけでは、単なる私立の学校になってしまうので、教育省に対して公立校の申請をしないといけないんです。申請が通れば、教育省から先生が派遣されて、その後の維持費とかを賄ってくれます。

教育支援に詳しくない芸能人などがお金だけポンと出して、私立校を建てて、その後の維持管理には関与しないとすると、その後学校が自立できなくて廃墟になってしまうんですね。なので、しっかり公立申請までして、カンボジア政府に面倒見てもらえるようにするところまでプロセスを踏むっていう感じですかね。

 

―現地の教育省との関わりについてもう少し具体的に教えていただけますか。

教育省との関わりは結構深くて、長い付き合いです。過去に小学校建設を行った実績もありまして、勲章を政府の方からもらったりしてます。カンボジア政府から評価されて、春夏2回渡航するときは、毎回必ず教育省の方とミーティングする機会をもらえて。そのときに、カンボジア政府としての、教育の方針っていうのを聞いて、それに沿った支援ができるようにっていうことを意識してます。

 

―現地の方々とは通訳を通じてお話するのですか。

カンボジア人の方で日本語とクメール語の通訳の方がいて、日本語は7割ぐらいしか何言ってるかわかんないんですけど(笑)。子どもたちだったら、言語が通じなくても一緒に遊べたりとか、われわれもクメール語を頑張って覚えたりとかしていますね。あとはすごく意外だったんですけど、都市部の高校の学生とかに会いに行くと、みんなすごい英語ペラペラなんですよね。話が逸れますけど、都市部の高校行って、「将来何になりたいの」って聞くと、ITエンジニアになりたいとか、医者になるんだ、歯医者になるんだとか、みんなはっきりと、レベルの高い夢を持ってて、そこはすごくびっくりしましたね。

 

―活動の主体が学生だからこそできることは何ですか。

われわれの活動領域はカンボジアとラオスへの教育支援なんですが、もう1つ軸としてあるのが、日本国内での啓蒙活動で、中学校や高校での出張授業っていうのを積極的に行っています。小中高と生きてきてなかなか国際協力っていうのに直接触れる機会がなかったりとか、国際協力というキャリアをそもそも考える機会がなかったりっていう場合が多いと思うんですね。なので、学生団体で、中高生に近い年代のわれわれが出張授業とかを行うことによって、そういった世界があるんだよっていうことを伝える活動もしていますね。

 

―コロナ禍での活動はいかがでしたか。

コロナ禍は渡航が全くできず、現地との関係性が薄まってしまいました。文面の会話だけでは把握しきれないニーズや現状が非常に多く、また自分たちの目でも確認しないと本当にその課題があるのかどうかも分からない状況だったので、コロナの間は思うような支援ができなかったです。今はコロナで薄れてしまった関係の再構築に力を入れています。

 

【幼児教育の現状・必要性】

―次に、活動国での幼児教育の現状についてお伺いします。

まず、カンボジアで小学校に通っている子どもの割合はどのくらいだと思いますか?

実は、97%(※1)の子どもが小学校には通えているんです。地方によってクオリティの格差はありますが、基本的には初等教育はほぼ行き届いているんですね。

 

※1:2017/2018時点(Education | UNICEF Cambodia

 

―意外でした。

ただし、幼稚園に通っている子どもは全体の約半数と言われています。特に都市部と地方で格差があって、地方ではまず幼稚園の箱自体が足りない。だから幼稚園建設の必要性があるんです。

今、僕らが支援して幼稚園を建てようとしているロムチェック村というのが、バッタンバン州(※2)の中心地からさらに離れた辺境の村で、幼稚園はゼロ、小学校も1つしかないし、村の世帯数も100世帯くらい。子どもたちはずっと家にいて、お母さんやおばあちゃんが子守をしているというような状況です。カンボジアではクメール・ルージュ(※3)に知識階層の人たちが虐殺されたといった歴史も影響して、まず親世代が読み書きができない場合も多くて。そういう家では子どもに読み書きも教えられないので、小学校に入る段階での子どもたちの学力差が非常に大きいとも聞いています。

 

※2:カンボジア第3の都市バッタンバン市を含む人口99万の州

※3:カンボジアの元首相ポル・ポトが1970年代に率いた共産主義勢力。反対派を次々と処刑し、恐怖政治を布いた。

 

―幼児教育の必要性はどのようなところにあるのでしょうか。

幼稚園って、集団生活に慣れるための第一歩という役割が大きくて。たとえば幼稚園を飛ばして小学校から入ると、集団生活や、先生の言うことを聞かなくちゃいけない環境に慣れずにドロップアウトすることが多くなってしまう。周りと協調して行動することを幼稚園で教えてもらってから小学校に入ることで、小学校での学びもより充実するというところに、幼児教育の重要性がありますね。

 

カンボジア バッタンバン州 ロムチェック小学校にて(2023年春に撮影, 風の会提供)

 

―数年前にカンボジアを旅行した際、小さい子が物を売るなどの児童労働を目にしました。児童労働に関して何か取り組んでいらっしゃることはありますか。

直接的に児童労働に関わる支援は行っていませんが、教育支援が回りまわって児童労働を減らすことに繋がるかな、とは思っています。教育支援に携わっていて感じるのは、小学校までは行けるけど、そのあとは家で働くから中学校には行かせてもらえないという子や、中学校に行くお金がない、制服代さえも払えないといった経済的な理由で学校教育からドロップアウトしてしまう子がまだ見受けられるということです。資金力の乏しいNGOができることは少ないというのが正直な実感ですが、われわれのミクロの教育支援が少しでもそういった状況を改善できたらいいかな、とは思っています。

 

【活動の課題・限界】

―政府や国全体の社会問題が背景にあると、NGO団体の活動では根本的な解決が難しいと思うのですが、それでも学生がNGOとして活動する意義は何でしょうか。

教育支援をやっていて限界を感じる部分というのは正直あります。たとえば、学校のゴミ問題。ゴミをどうにかしたい、衛生環境を整えたいとなったとき、学校はプラスチックも燃えるゴミも全部まとめて焼却炉で燃やすんです。プラスチックは燃えると有毒ガスも出てよくないので直そうとしたんですが、それを解決するためには学校にゴミ収集の業者に回収しに来てもらうという追加のプロセスが必要だったりします。

学生団体だけでは根本的な解決ができないという事例は少なくありません。ただ、できることも確実にあって、その村の方々のニーズに少しでも応える草の根支援という意味では、われわれのような小さな事業団体でも活躍できる部分があると思います。より根本的な解決を目指すなら、政府の介入やより資金力のあるNGO団体、営利企業による活動が必要なんですが、辺境の地にある本当に小さい村の細かな支援というは、われわれのような小回りの利く団体にしかできない支援だと思うので、そういった支援の仕方で向き合っています。

 

―国内での広報活動の中で障害や壁を感じることはありますか。

日本人の価値観として、ボランティア活動を偽善と捉える人もいたり、そもそも他の先進国と比べて日本に寄付文化が根付いていなかったりという背景があるので、国際協力とか慈善事業ということを掲げると、どうしてもマイノリティになってしまう。だからわれわれの言うことに耳を貸してもらえる確立がすごく下がってしまっていて。これってわれわれ1団体が解決できることではなくて、慈善事業に関わる全ての団体、もしくは日本全体で価値観を変えていかなきゃいけないというふうに感じています。

 

【現地でのエピソード】

―ボランティアとして現地の方々と会った際に、ご自身の考え方や価値観と異なる部分に衝撃を受けたことはありますか。

ゴミに対する価値観が違うことにすごく驚きました。たとえば、プラスチックを何も気にせずに燃やしてしまうだとか。あとは、学校の校庭にもゴミが散乱していたり、道にゴミを捨てることが当たり前であったり。日本では良く思われないことですよね。そういったことを悪いことだと思わないのは、現地の人たちの価値観だと思うんです。教育支援をするうえで大事なのは、相手の価値観に合わせて、相手のニーズに応えていくことだと考えています。その応え方も、それが本当に正しいものなのか、きちんと精査するようにしています。

 

―活動の中で一番嬉しかったことは何ですか。

自分が支援している子どもたちや、村の人たちに実際に会えたことです。風の会に入会した当初は、支援先にどのような人たちがいるのか不透明な状態だったので、その支援が本当にためになっているのか不安に思うこともありました。渡航して直接子どもたちに会い、一緒に遊んだりする中で、今後もこの教育支援に携わりたいと感じることができました。

 

写真の男性は高畑さん
写真のイラストは風の会のシンボルマーク、文字は風の会(Association of Following Wind)の略称                       いずれもカンボジア バッタンバン州 ロムチェック小学校にて   (2023年春に撮影, 風の会提供)

 

―活動の中で現地の方々と対立してしまったことはありますか。

ありますね。具体的に言えば、学校に焼却炉を建てたいという案件が来た時に、カンボジアの相場からしても高すぎる値段での支援を依頼されたんです。最初は35万円と提示されていたんですが、第三者を含めて精査したところ最終的に5万円になりました。全てに当てはまることではないですが、カンボジアの学校側がNGOを経済的に利用しているのではないかと思ってしまうこともあるんです。支援をする中で、提案されたことを鵜呑みにしないように気をつけています。

 

―現地の方々に助けられたり、温かみを感じたりしたことはありますか。

会として一番助けられているのは通訳さんですね。現地の人たちとの交渉や緻密な連絡をしてくれていて、もう20年近くお世話になっています。あとは、カンボジアの人々が支援への感謝の気持ちとして色々なことを無償でやろうとしてくれるんです。たとえば通訳さんが、依頼された仕事以外で他に文書の翻訳が必要であればやるよと言ってくれたことがあります。カンボジア人の祖国に対する思いが、われわれ支援団体に向けてくれる優しさに繋がっていると感じます。

 

―最後に、読者の方々に向けてメッセージをお願いします。

普段、国際協力に関わることは少ないとは思いますが、われわれのような活動をしている学生がいるんだよということを知ってもらい、少しでも国際協力に興味を持ってもらえたら嬉しいなと思います。

 

風の会の幼稚園建設について、さらに詳しく知りたい方はこちらから!

幼稚園建設プロジェクト | 国際協力NGO風の会

 

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