ーードラマは芸術として美的に優れてるだけじゃなくて、パブリックで開かれているべきだとお考えなのでしょうか?
テレビ全体がそうなんだけど、テレビの面白いところって、 非完結的なところだと思うんですね。例えば、ドラマの最中にニュース速報とか入ってくるじゃないですか、地震速報とかも。映画だったら地震が起こっても絶対入ってこない。それがむしろドラマの面白いとこで、常にそうやって日常が入り込んできて、日常に引き戻される。だから、それだけテレビって私たちの日常生活と繋がってるってことなんですよね。
大河ドラマの『龍馬伝』の龍馬が殺されるシーンで速報が入っちゃって、再放送でも同じところで速報がはいって、視聴者に大ブーイングされたというのがあったけど、なんかこう面白いじゃないですか。その後DVD買ったって、そんなことはないわけでしょ。だから、その時に見た人だけがそれを体験するみたいなのって、 やっぱり面白いなと思って。基本的にテレビってライブ性があるんですよね。たとえ録画放送でも。やっぱり日常と密接に結びついてるっていうのが、テレビの面白いところですかね。
ーー娯楽性と作家性の両立は、テレビドラマにおいてはどういうバランスが理想的だと思いますか?
エンタメ性と社会性の両立という点では、野木亜紀子さんがピカイチですね、脚本家で言えば。
WOWOWだからご覧になってないかもしれないけど、昨年『フェンス』っていうドラマがあって、私はもうこれ2023度のベストドラマなんですよ。沖縄の問題を取り上げているのですが、野木さんってとにかく取材魔なので徹底的な取材をして、沖縄の基地問題とか差別問題とか、様々な問題に正面から切り込んでるわけですよ。でも、野木さんってやっぱり基本的にはエンターテインメントを書く人なので、それを面白いドラマにしているっていうところがすごいなと思って。野木さんのドラマってぶれないんですよ。
例えば、宮藤官九郎さんのドラマも、本当はそうなんですよね。ただ笑えるだけじゃなくて、現代社会への批評にもなっている。だけど、そういう部分ってちょっとわかりにくいじゃないですか。逆に、坂元裕二さんのドラマだと、貧困の問題とかシングルマザーの問題を取り上げたドラマでは、エンタメ色は薄い。どちらも素晴らしい脚本家ですが。でも、野木さんって両方を難なく両立させてる感じがしますね。『MIU404』とか『アンナチュラル』もドラマとしてとても面白いのに、ものすごく社会問題を取り上げてますよね。
ーーポリコレやコンプライアンスなどでドラマの面白さが損なわれているという主張もありますが、どうお考えですか?
ポリコレやコンプライアンス自体はとても大事なことで、制作現場はちゃんと意識する必要があります。ただ、どこの局、制作会社でも恐れているのがSNS上での炎上ですね。だから、今、制作現場が萎縮しがちなんですよ。ドラマを見る人が一方的に正義の側に立って登場人物を断罪するようなことが結構増えていて、ドラマに出てくる人も正しくないと叱られるという傾向があります。例えば、嫌な役が出てくると局に苦情が来たりするんですって。だけど、現実は嫌な人はいっぱいいて、理不尽なことだらけじゃないですか。 なのに、ドラマの中だけ正しい人、いい人ばっかり出てきたら、もう現実と乖離していきますよね。だけど、正しくないと断罪されていく、すごく不寛容な社会になってきているんです。フィクションに対してもうちょっと寛容になっていかないと、本当にドラマはつまらなくなると思います。